6日に文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会がまとめた東京電力福島第1原発事故の自主避難者への賠償指針。妊婦と18歳以下の子どもは1人当たり40万円、それ以外は同8万円の賠償を求めた。県内に自主避難している人たちからは、貯金を切り崩す苦しい家計の助けになると安堵(あんど)する人がいる一方、低すぎる賠償額に憤りを露わにする人もいた。【小林多美子、宮地佳那子、塚本恒】
「これでもうしばらく新潟にいられる」。福島県いわき市から新潟市に、4歳と1歳の娘を連れて避難している女性(35)はほっとした表情を見せた。夫(35)はいわき市に残り、食費や光熱費が2世帯分かかる「二重生活」に家計は苦しく、毎月5万円は貯金を切り崩している。底を突きかけた預金残高を見て、避難生活も来年3月までにしようかと諦めかけていたときだった。
夫は月に1回ほど新潟に来てくれるが、日々成長する娘の姿を見せられないのがもどかしい。だが、娘の健康のことを考えると、今はまだ戻る気にはなれない。
一方、福島市から新潟市に夫婦で避難している男性(41)は「妻は毎日泣いていた。その賠償の答えがこれか」と憤った。
震災後の4月、妻の妊娠が分かった。2人とも会社を退社し、8月末に新潟市の借り上げ仮設住宅に移り住んだ。「出産はお父さんやお母さんのいる福島でしたい」という妻をなだめ、11月上旬に新潟市の病院で第1子となる男児を出産した。
男性は「避難者それぞれの事情を一切考慮していない。審査会は避難者の実態を調査しに来るべきだ」と怒りが収まらない様子だった。
福島市から長岡市に身を寄せているアルバイト店員、深田豪さん(25)は「大人1人8万円は少ないと思う。でも、津波で家が流されてしまった人のことを考えると、少ないとばかり言っていられない」と複雑な心境だ。
震災前は福島市でバーテンダーとして働いていたが、震災で閉業し失業。放射能の影響も考え、自主避難を決めた。現在、同居する弟(23)と合わせても収入は月15万円ほど。大学の奨学金の返還もまだ約90万円残っている。また、金銭面以外でも、自主避難者に向けられた周囲の目の厳しさもつらく感じるという。「『福島市なんだから早く帰れば良いのに』『全然危なくないのに、何でまだいるの』と言う人もいて、精神的にも辛かった」と漏らした。
「自主避難したくてもできなかった人を考えると、皆がもらえるのは良かった」と話すのは、いわき市から新潟市に4歳と1歳の息子を連れて避難した女性(34)だ。10月下旬には三男を出産した。ミルク代やおむつ代など出費はかさむ。いわき市に残って働いている夫が住む一軒家も、地震で基礎部分に被害が出て、建て替えを考えている。それでも、避難した人だけに賠償金が支払われるのならもらいにくいとも思っていた。「新潟にできる限り長くいたいと思っているので、大事に使いたい」と話した。
http://mainichi.jp/area/niigata/news/20111207ddlk15040067000c.html