「いもくって ぶっ」「くりくって ぼっ」「あるいて び」。谷川俊太郎の詩を絵本にした「おならうた」(絵本館)を、メロディーに乗せ、手で笛を吹いたり、変な顔をしながらおもしろおかしく歌う。
愛知県刈谷市で開かれた約一時間の「絵本ライブ」の間、子どもたちの視線は杉山三四郎さん=岐阜市=にくぎ付けだ。
東海地方を中心に、音楽を交えた絵本の読み聞かせや、保育士や保護者向けの絵本の読み方教室などを開いている。
「飯もついていて、空気のおいしいところで過ごせる」。大学二年生の夏休み、子ども向け英会話教室を運営する会社が主催したキャンプに、軽い気持ちでアルバイトスタッフとして参加した。
大学進学時に選んだのは工学部だったが、「子どもに関わる仕事が向いているのでは」と感じ、大学を中退。同社に入り、十九年間、英会話講師の育成や本の出版、教材作りなどに携わった。
「自然の中で、子どもたちをもっと自由に育てたい」。こう考えて会社を辞めようとしたが、何度も留められた。十年間、引き留められ続けたが「このまま人生を終わりたくない」と、振り切って独立。大学時代にキャンプで出会った妻と、十八年前に出身地の岐阜市で絵本と童話の店「おおきな木」を開いた。
オープン後、子どもたちに自然の中で思い切り遊んでもらおうと、会員制で「おおきな木野外塾」を始めた。子どもたちには森や林の中で自由に遊ばせる。虫取りに夢中になる子もいれば、土に穴を掘って遊ぶ子もいる。「自然は、ゲームよりも面白い。昔も今も、子どもたちの本質は変わっていないと思う」と、杉山さん。
「絵本を音楽にしても面白いだろう」。大学時代、フォークソングブームに乗って弾き方を覚えたギターを片手に、絵本にメロディーを付けて歌い始めた。これが好評となり、各地で「絵本を歌う」絵本ライブを開くようになった。
ただ、「たまたま僕が歌好きなだけ」。「歌った方がいいのではないかと思われると悔しいから」と、絵本ライブでも必ず一冊は、メロディーに乗せず、絵本の朗読をする。刈谷市のライブでも、「ぼくがおっぱいをきらいなわけ」(ポプラ社)を、子どもたちに語りかけるように読んだ。
「絵本の吸引力はすごい。絵本がなければ、子どもたちと仲良くなれることはない」と断言。絵本の力を借りながら、子どもたちの表現力や、遊ぶ力を高める手助けを続けている。 (稲熊美樹)
http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2011120702000065.html