横浜の球団売却問題は、携帯電話向けソーシャルゲームサイト「Mobage(モバゲー)」を運営するディー・エヌ・エー(DeNA、本社・東京都渋谷区)への譲渡に向け、いよいよ最終局面に入った。横浜市と地縁がない同社は、創業者の故郷である新潟への本拠地移転が悲願だという。日本野球発祥の地、横浜からプロ野球チームが消滅するのか。
水面下での根回しは完了した。現親会社のTBSホールディングス(HD)、新親会社のDeNAは、ともに28日の取締役会で球団譲渡が承認され次第、正式発表する。12月1日のオーナー会議で、12球団の4分の3以上の承認を得られれば、晴れてDeNA球団が誕生する。
4年連続最下位の暗黒時代に沈む横浜に、刷新のときが訪れる。尾花高夫監督(54)は今季が3年契約の2年目だが、球団側は22日に1軍全コーチも含め「休養させる」と発表。来季人事は白紙となった。
新しいチーム名には「DeNA」ではなく、「Mobage」の名義を盛り込む案も検討されているが、最大の懸案は現在の本拠地、横浜スタジアムとの関係だ。立地は最高だが広告や物販などの収入が球団に入らず、「経営を圧迫している」との指摘も受けてきた。昨年買収を試みた住生活グループも、球場問題が最大のネックとなり撤退した。
新球団も来季はハマスタを継続使用するが、「DeNAは将来的に新潟へ移転したい考え。スケジュール的に来年から-というわけにいかないが、再来年にも出て行くのではないか」と関係者は明かす。「そもそも同社がプロ野球チームを持つのは新潟移転ありき。創業者が故郷に錦を飾るため、というのが一番の理由だ」というのだ。
1999年にDeNAを設立した南場智子氏(49)は新潟市出身。主力事業のモバゲーを、登録会員2700万人を超える人気サイトに急成長させたが、今年5月に夫の看病のため代表取締役兼CEOを退任。代表権のない取締役とはいえ、カリスマ創業者の影響力は健在だ。「“新潟発”の会社」を自任するなど地元愛は強く、2008年には新潟市内に、サイトへの書き込みなどを監視するサポートセンターを設立している。
移転後の本拠地となる「HARD OFF ECOスタジアム」(新潟県立野球場)は09年開場で、3万人収容。使用料はハマスタの年間8億円程度から2億円程度にまで下げられる上、物販や広告の収入も球団に入るため、球団経営の環境は大いに改善される。
不安は観客動員か。新潟市の人口は81万人。370万人の横浜市とは比較にならないが、人口はあくまでポテンシャルだ。Jリーグのアルビレックス新潟が毎試合約2万6000人を集めるのに対し、横浜は毎試合1万5000人しか入っていない。
DeNAが新潟移転をためらう理由は皆無に等しい。一方で、906万人と東京都に次いで人口が多い神奈川県が、プロ野球の真空地帯となるのはゆゆしき事態といえる。同県は55年に大洋が川崎市に転入して以来、一時は大洋とロッテの2球団を擁し、半世紀以上もプロ野球とともに歩んできた。県内には高校や社会人の強豪も多いが、その受け皿も失われてしまう。
横浜に球団を存続させたい地元関係者は、TBSの継続保有や、かつて横浜に本社があったキリンホールディングスを担ぎ出すなどの方向性を探るも、不首尾に。今月に入ってミツウロコや京浜急行電鉄など、地縁がある企業の連合体が買収に動いたが、交渉の席にもつけなかった。昨年から準備を進めてきたDeNAに“急造チーム”がかなうはずもなかった。
関係者は「TBSからすれば、何を今さらという感じだろう。球団保有が苦しいのはみんな分かっていたのに、手をさしのべる気概を見せたのは会社の規模的に難しいノジマだけ。地元企業はおいしいとこ取りばかり考えているし、横浜市も『売名目的なら来なくて結構』という態度のままだった」とあきれる。
楽天・三木谷浩史球団会長(46)は、横浜企業連合を支持して「プロ野球チームはその土地の文化そのもの」と語った。ハマっ子の野球文化が、今まさに瀬戸際に立たされている。
http://www.zakzak.co.jp/sports/baseball/news/20111024/bbl1110241138003-n1.htm