■パパの笑顔応援中
--14年前に育児休暇を取得していますね
小崎 いまでこそ、子育てに積極的にかかわる男性のことをイク(育)メンとかいいますけど、当時、育児休暇とるなんて言ったら「何いうてんねや」って感じ。僕は兵庫県西宮市の男性保育士になって、最初は知的障害者の授産施設に赴任した。社会人2年目に結婚して、28歳で長男が生まれたんです。長男が10カ月のとき、最初の育休を2カ月とった。子供は3人いてすべて育休をとりました。
--出産も立ち会ったとか
小崎 最初の子供のときはすごくうれしくて。嫌がる妻を何とか説得して出産に立ち会った。入院から76時間もかかって、苦しんで苦しんで産んだ妻より先に子供を抱き上げました。そのとき、自分は父親になったって実感したんです。実は、育休もそのひとつ。父親になるための「パパスイッチ」なんですね。
--パパスイッチですか
小崎 女性は妊娠、出産とか、母親になるための過程がいろいろある。例えば、おなかの中で子供が動いたとか。初めておっぱいをやったとか。残念ながら父親にはそれがない。出産の立ち会いや育休ってパパになるための大事なスイッチなんです。
--いまでさえ男性の育休取得率は1%台。当時は大変だったのでは
小崎 平成3年施行の育児休業法で、男性も育児休暇をとれると知って、上司の係長に聞きに行くと「えっ、そんなんあるの」。人事課からは「制度はあるけど、ほんまにとりはるんですか」。同僚の中には「子供の下の世話するだけやろ」という人もいた。社会全体の育児に対する意識はその程度だった。
--育児はうまくいったんですか
小崎 いいえ。育児本なんかにいろいろ書いてあるけど、その通りには絶対にいかなかった。僕が最初に困ったのは、うんちの処理。人のうんちを触るなんてそれまで考えれなかったから。でも、わが子のツルツルのお尻に黄ばんだ布おしめは当てられない。鼻に洗濯ばさみを挟んで手袋2枚して便をトイレに流した。涙流して、何度もえづきましたよ。
--思い通りにいかないことの連続だった
小崎 でもね、1歳前の子供の体調管理って、うんちみないとわからない。言葉をしゃべれないから。緩さとか色とか、においとか、そういうもので体調を判断しないといけない。ものすごく大切なことだったんです。
--いままで分からなかったことが見えてきた
小崎 そうですね。通勤時間帯にベビーカーで出かけて満員電車で乗ったときなんか、殺されるかと思った。ベビーカーを押して細い道に入って路上駐車なんかあると、何十メートルとバックして違う道を探さないと行けないこともあった。
--社会的弱者の目を持ったということですか
小崎 当時、ぼくは成年の男子で、社会的にはすごく有利な立場での視点でしか物事を見ていなかった。非常に弱い立場の目線から社会のことを考えたり、足らない部分を実感できた。
--貴重な経験ができた
小崎 最初は子育てなんて楽だと思っていました。子供を遊ばせておけばいいって。でも大変なことばかり。ただ、人間らしい時間だったとも思います。子供と一緒にいて。ご飯をつくって、遊んで、寝かしつけて。仕事に追われる今と違い1日の時間がゆったりと流れていた。あんなに人間らしい時間は人生の中であのときだけですね。(聞き手 大谷卓)
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