仕事や子育てで忙しい世代が直面する「親の介護」。いざというときにあわてないため、親が元気なうちに知っておきたいポイントや心構えをまとめた。(小山孝)
■仕事と両立へ、選択肢広がる
「勤めていた時は、親の介護なんて考えもしなかった」。今年2月に91歳の父親をみとった京都市の田村権一さん(61)が、6年間の介護生活を振り返り語った。
東京都内で妻と暮らしていた2005年、京都市に住む父親が入院した。病院からは、「3か月で退院して」と告げられたが、母親は前年に病死、親族には「面倒を見られない」と言われた。悩んだ末、会社の介護休業制度を利用して、実家で父親の介護を始めた。
会社の制度は、法定の介護休業(93日間)より長い1年の取得が可能だった。田村さんは、「施設を見つけて復職するつもりだった」と語るが、施設は入所待ちが多いことを知らなかった。京都の暮らしは35年ぶりで、知り合いは少ない。認知症や介護保険の知識もなく、とまどうことばかり。結局、施設は見つからず、同年、退職を決意した。
退職後、収入は父親の年金のみ。介護費用もかさみ、自分の国民年金保険料は払えなかった。田村さんは、「知識があれば施設探しも工夫できたはず。会社を辞めたため、自分の老後も不安になった」と後悔する。
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親の介護が始まる状況は人それぞれ。完全な準備は難しいが、「親の生活」「会社の制度」「介護保険制度」などの知識があれば、選択肢が広がってくる。
社会福祉法人「浴風会」(東京)で「介護支え合い電話相談」を担当する角田とよ子室長は、「元気なうちに収入や資産などお金の事を聞いておくべき」と提案する。親が倒れたり、認知症になったりした時、通帳や保険証書の保管場所、カードの暗証番号などがわからずに苦労する人が多いためだ。しかし、いきなり切り出せば、「財産を狙っているのか」と誤解されるおそれも。「震災を話題にし、いざというときの対応を話し合ってみては」と角田さんはアドバイスする。
このほか、親の主治医や服用薬、交友関係なども子どもが知らない場合が多い。「延命治療」「施設か在宅介護か」などの希望も聞いておきたい点だ。角田さんは、「万が一のために自分の情報を書き込むノートが市販されている。親子で話し合いながら記入してみてはどうか」と提案する。
親の老化のサインを見逃さないためには日頃の対話も重要だ。遠距離介護者らが集まるNPO法人「パオッコ」の太田差恵子理事長は、「心配させないようにがんを隠す親もいる。『便りがないのは元気な証拠』という言葉は高齢の親には当てはまらない」と話す。
介護サービスの情報は地域の「地域包括支援センター」で収集できる。制度や介護施設だけでなく、配食などの民間サービス情報もいざというときに役立つ。
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親の介護では、多くの場合、仕事との両立という問題に直面する。就業規則で介護休業制度を調べておきたい。企業によっては休業期間が国の規定より長かったり、分割取得が認められたりしている場合がある。就業規則に規定がなくても取得可能だ。だが、介護は見通しが立ちにくく、短い休業期間ですべて対応するのは難しい。休業中に親族や関係者らと連携して親の介護体制を整え、仕事との両立を目指すのが現実的だ。
とはいえ、制度取得すらためらう人が多いのが現状。企業向けに仕事と介護の両立支援を行う「wiwiw(ウィウィ)」(東京)の山極清子社長は、「企業側が従業員の介護の悩みを把握していない場合が多い。組合などを通じて介護支援の必要性について声を上げることも大切です」と話す。
介護・看護を理由に離職した人は年間14万人を超える。施設や在宅サービスが足りないなど、仕事と介護の両立には困難が伴うが、老後の生活設計に詳しい社会保険労務士の桶谷浩さんは、「退職すれば退職金や年金も減る。親の介護は大切だが、経済基盤があってこそ。可能なかぎり辞めないための戦略を練ってほしい」と話している。
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◆介護支え合い電話相談:(電)0120・070・608 (月~金 午前10時~午後3時)
◆NPO法人「パオッコ」:http://paokko.org/
■介護休業制度の概要
◇介護休業◇
対象家族1人につき、要介護状態に至るごとに1回、通算で93日取得できる。
◇介護休暇◇
対象家族が1人なら年5日、2人以上いれば年10日まで、1日単位で取得できる。
◇短時間勤務制度◇
短時間勤務、フレックスタイム制度などが、介護休業の取得日数と合わせて93日利用できる。
◇介護休業給付◇
介護休業期間のうち、最長3か月まで雇用保険から賃金の40%分が支払われる。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110829-00000305-yomidr-soci