福島第1原子力発電所の放射性物質漏えい事故の影響により、原発周辺の病院で医師や看護師など、職員の退職が増加している。福島県病院協会の聞き取り調査では、原発周辺の17病院で、全職員の少なくとも1割程度が既に退職した可能性がある。同協会の前原和平会長(白河厚生総合病院長)は、「県沿岸部の浜通りには医療関係者がもともと少なく、人材が流出したら新しく募集しようにも集まらない。診療休止中の病院が職員の雇用を継続できるよう、一刻も早く損害賠償金の仮払いをするべきだ」と訴えている。
同協会が4月に実施した調査によると、震災直後には回答した44病院に勤務する全職員の5.2%に当たる788人が放射線障害を恐れて職場を離脱したり、退職したりした。その後、職場離脱した職員の復帰がいったんは進み、震災8週間後の時点の退職者数は225人にとどまった。
ところが、第1原発から20キロ以内の警戒区域で診療休止中などの17病院から状況を聞いた結果、退職が再び増え始め、深刻な状況にあることが分かった。前原氏は7月11日現在、これらの病院に勤務する職員の1-2割が既に退職した可能性があるとみている。特に、子育て中の看護師の退職が目立つという。
浜通りでは、医師や看護師の不足がただでさえ深刻化しており、前原氏は「このままだと地域の病院が自然消滅してしまう」と危惧している。
■事故の長期化は人材不足に拍車-広がる危機感
県によると、警戒区域にある7病院では、現在も診療休止を余儀なくされている。
これらの病院では、診療報酬が途絶えているため雇用の継続自体が困難な状況で、職員をいったん休職扱いにするなどの対応を迫られている。休職中の職員には失業手当の支給が特例で認められるが、これだけで生活を続けるのが困難なケースもあるとみられる。
このため、原発事故が長期化して退職を余儀なくされる職員が増えれば、地域全体の人材不足に拍車が掛かりかねないとの危機感が広がっている。
日本病院会の堺常雄会長は7月13日、「国際モダンホスピタルショウ2011」のオープニングセッションで、「子どもが小さければ、ご家族は地元に帰っているはずだ。単身赴任で(勤務を)続けるのは困難な状況だ」と述べ、今後、県外出身の若手医師を中心に退職が増えることへの懸念を示した。
「関連業界から東電にそういう話があると聞き、検討もしている。経産省として『すぐにやれ』と指令を出す」。
中山義活経済産業政務官は12日の参院厚生労働委員会で、原発事故に伴う損害賠償の仮払いの対象に、医療法人も加える方向で検討する考えを示した。民主党の梅村聡参院議員の質問に答えたもので、梅村氏はこの日、原発周辺の医療機関で資金繰りが悪化している状況を指摘。その上で、原発事故に伴う東京電力の損害賠償仮払いの対象に医療法人が含まれていないことを明らかにし、今後の対応の説明を求めていた。
■看護職員向けに在籍出向契約―福島県
被災した看護職員の雇用を確保するため、県保健福祉部感染・看護室では、看護職員が被災医療機関に籍を残したまま、ほかの医療機関で勤務する「在籍出向契約」の活用を呼び掛けている。
在籍出向は、被災した医療機関と出向契約を結んだ別の医療機関で看護職員が勤務する仕組み。看護職員は双方の医療機関と雇用契約を結び、被災医療機関が復興するまで出向先で勤務する。看護職員の人件費は実質的に出向先が負担し、具体的な給与支給額は医療機関同士が契約で決める。
同室の担当者は「通常の給与水準を維持するのは難しいかもしれないが、雇用調整助成金と組み合わせて役立ててほしい」と話している。
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