熱中症にかかりにくくなる「暑熱順化」って何? 暑熱順化とは、暑さに体が適応した状態のこと。順化前後で最も違うのは汗腺の働き。順化すると汗腺の機能が高まり、汗が出て行くときに汗腺でナトリウムが再吸収される。その結果、塩分の少ないサラサラの汗がかけるようになる。
熱中症対策として、今すぐ始めたいのが暑さに体を慣らす「暑熱順化(しょねつじゅんか)」だ。暑熱順化とは、夏の暑さに耐えられる体になること。「かつては誰でも梅雨の間に暑さにさらされ順化したが、冷房のある環境で過ごす人が増えた今は積極的に順化するための対策が必要」と星教授。梅雨明けまでに順化しておけば、熱中症にかかるリスクをぐんと下げられる。
暑熱順化で変わるのはまず汗のかき方だ。「順化すると汗腺の働きが良くなり、汗とともに出るナトリウムの量が減る。その結果、体液バランスが崩れにくくなる」と星教授。
実際、星教授らが行った研究で、暑さに慣れていない冬場と、慣れている夏場では、同じ運動をしても汗に含まれるナトリウムの量に差があることが確かめられている(下グラフ)。
さらに「暑熱順化すると、体温の上昇を察知して汗をかき始めるタイミングが早くなる。体液量が増えて水分喪失に対する予備力が高くなる側面もある」と奈良女子大学生活環境学部の鷹股亮教授は話す。順化した人は発汗後の水分補給で体液量を回復しやすいことも、鷹股教授らの研究で明らかになっている。
◆運動すれば1週間程度で“順化”する
暑熱順化させるポイントは自力で汗をかく練習を積むことだ。
「半身浴やサウナで汗をかくだけでも効果はある。しかし、じっとしているだけだと順化が完成するまでに時間がかかるので、軽い運動を組み合わせて行うほうがいい」と鷹股教授。
鷹股教授によると、運動強度を上げるほど順化速度は早くなる。例えば10分のウオーキングを1日5回、休憩を挟んで行えば、早い人で4~5日、遅くとも1週間程度で暑さに慣れる。運動初日よりもバテ感が減ってきたら順化が進んだサインだ。途中で熱中症にならないよう、休憩と水分補給を十分行いながら進めていこう。せっかく順化しても、運動をやめたり暑さに体をさらさない日が続くと効果は薄れてくる。続けることが何より大切だ。
◆「睡眠中」や「飛行機」でも脱水は起こる!
体液はじっとしていても尿や汗、呼吸などで1日に2L前後失われる。夏は睡眠中に失う汗の量も多く「500mlから1Lに及ぶこともある」と星教授。そのため水分の予備が少ない高齢者は睡眠中に脱水状態になることも。
海外旅行などで長時間、空気が乾燥した飛行機でじっとしているときも要注意。知らず知らずのうちに尿や汗で水とナトリウムを失うので、水だけを飲んでいると血液がドロドロになりやすいことがわかっている。
Profile
星 秋夫 教授
桐蔭横浜大学 スポーツ健康政策学部 スポーツ教育学科
「肥満していると体の中に熱をためこみやすいので熱中症のリスクになります。やせることが第一ですが、まずは風通しのいい服装で涼しく過ごすよう心がけることが大事です」
鷹股 亮 教授
奈良女子大学 生活環境学部生活健康学講座
「暑熱順化を効率良く進めるコツは、暑めの環境で運動することです。暑い所でじっとしていたり、涼しい所で運動したりするよりも、非常に効果的に順化が進みます」「これ以上の情報をお読みになりたい方は、日経ヘルス誌面でどうぞ。」
取材・文/小林真美子
日経ヘルス 2011年8月号掲載記事を転載
この記事は雑誌記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110711-00000001-health-soci