福島第1原発事故による被災で、住民避難だけでなく役場機能の移転まで強いられている自治体の存立を支援する政府の態勢整備が、震災から3カ月近くたってようやく本格化した。経済産業省が原子力災害を主管する中、省庁縦割りの影響もあり、政府内の取り組みがこれまで事実上、空白状態となっていた。片山善博総務相は4日、原発自治体12市町村長と会談し、避難住民向けの特例法制定の意向を示したが、同席した政府関係者からは「もう1カ月早く開ければより迅速な対応ができた」との声も上がった。【影山哲也】
「全世帯の一時帰宅には単純計算で5カ月以上かかる。国が決めた一時帰宅は、実施まで国が面倒を見てほしい」。人口約1万6000人の富岡町の職員は、毎日新聞の取材に疲れを隠さなかった。
「国が決めて市町村が実行する」形式の原発事故対応に、自治体職員は不満をつのらせている。たとえば、立ち入りが禁止される「警戒区域」(原発から20キロ圏内)への一時帰宅の周知や申請受け付けなどのほとんどが市町村の担当。「決めたところにやってほしい」との声は少なくない。
海江田万里経産相をトップとする政府の「原子力被災者生活支援チーム」は5月17日、原発被災者支援の基本方針を公表。仮設住宅や一時帰宅など当面の見通しをまとめて示した。一方、長期的な自治体再建に関する記述は全59ページのうち2ページにとどまる。
福島県庁で片山氏が首長と会談に臨んだ狙いは、「不満を国にぶつけてもらう」(政府関係者)とともに、自治体に長期的な展望を示すこと。片山氏は「今の仕組みだと(住民票移転で)ふるさととの絆が遠くなるか、(移転させずに)住民が(避難先で)遠慮がちになる。新しい仕組みが必要だ」と、現行制度が被災住民の要望に応え切れていないことを認めた。
その上で「避難住民が学校教育、介護、医療などの行政サービスを遠慮なく、肩身が狭くならず、堂々とした立場で受けられるようにせねばならない」として、住民票を移さなくても避難先で行政サービスを受けられるよう、特例法を整備するなどの具体的な支援策を明らかにした。
自治体が災害で役場ごと全面避難したケースは、雄山が噴火した00年の東京都三宅村(三宅島)や、04年の中越地震の新潟県山古志村(現長岡市)などがある。ただ、原子力災害で帰還の見通しが立たないまま8町村が全面避難した例はない。
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