【日曜相談 あすへのヒント】
【相談】
半年前、父はスキルス胃がん、余命は1年との告知を受けました。既に手術はできず、化学療法を受けています。父は今もなお病気は治ると信じて、告知後も前向きにがんばっています。しかし、私は大変なショックを受け、特に母は「これからお父さんのいない人生なんて生きていてもつらいだけや」と父のいない場では泣いてばかりです。
私の子供たちも父のことが大好きで、家が近いため、毎日のように遊びに行っています。そのじいじがいなくなると、子供たちにとっても大変なショックだと思います。私自身もどう気持ちを切り替えればいいのか分かりません。
残り少ない時間、父とどのように過ごしていけばいいのか、父に何をしてあげられるのかなど不安だらけです。どうすればいいか、毎日悩んでいます。(和歌山県 30代女性)
【回答】
ようこそお便りをくださいました。いつまでも家族と仲良く暮らせたら。誰もが願うことです。あなたのつらい気持ちが痛いほど伝わってきます。
私の実母も余命3カ月と宣告され、朝を迎えるたびに「今日も母が目覚めてほしい」。このことだけに喜びを感じていたものです。
しかし、残念ながら早かれ遅かれ私たちはいつかは死ななければなりません。
仏教に「四苦八苦」という言葉があります。まず四苦は(1)生きてゆく苦しみ(2)老いてゆく苦しみ(3)病になる苦しみ(4)死ななければならない苦しみ-です。
さらに、(5)愛別離苦(あいべつりく)=愛するものと別れなければならない苦しみ(6)怨憎会苦(おんぞうえく)=嫌な人と会わねばならぬ苦しみ(7)求不得苦(ぐふとくく)=手に入れようとしても得られぬ苦しみ(8)五陰盛苦(ごおんじょうく)=色・受・想・行・識の五陰から生ずる心と身で味わう苦しみ-と、人とのつきあいで生じる苦が残りの四苦です。
さて、この苦しみとは何でしょうか。それは、「自分の力ではどうにでもならないこと」ということです。どうにもならないことをどうにかしようとすることで苦しみを生むのです。
私たちは生まれようと思って生まれたのではありません。ですから、寿命も自分で予測もコントロールもできないのです。
仏教は苦しみを「何とかしてくれ」とお願いするというよりは、自分が一体何が原因で苦しんでいるのかということを明らかにしていくという教えです。
あなたは失われてゆく「命」だけを追い求め、悔やんでいませんか。
父さまが亡くなられることだけを嘆くのではなく、父さまとどう残りの人生を過ごし、何を受け止めるのか。それが残されたあなたたち家族の使命なのです。それが父さまにとっての親孝行ではないでしょうか。
「おはよう!父さん。今日はどんなことをお話ししようか」。こういう気持ちで家族の時間を大切にしてください。
■回答者・川村妙慶
僧侶兼アナウンサー。46歳。ブログで法話を日替わりで更新し、寄せられた悩みに回答している。主な著書に『ほっとする親鸞聖人の言葉』(二玄社)などがある。
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