[ カテゴリー:災害 ]

被災者の声――それは壮絶だった

相場英雄の時事日想:
4月下旬、筆者の相場英雄氏は宮城県の石巻市、東松島市に向かった。街は復興に向けて変わりつつあったが、被災者はさまざまな問題を抱えている。今回の時事日想は、現地の人たちの声を紹介する。

東日本大震災の発生から2カ月が経過した。4月23、24日、筆者は石巻市、東松島市を駆け足で再訪した。街を覆っていたがれきの撤去が進ちょくし、一部の商店も再開するなど、被災地は少しずつ復興に向かっていた。その一方で、厳しい現実にも直面した。惨禍に耐えてきた被災者の心のケアが全く手つかずの状態にあるのだ。彼らの心の重しを早期に取り除く必要がある。

●生き残りから現実へ

筆者が再訪問したときは、ちょうど現地の学校が新学期のスタートを切った時期に当たった。現地の友人たちから聞かされた話は、壮絶だった。

「学校の父兄会に出席したら、『下の子供の手を離しちゃった』と泣いている母親がいた」――。「手を離す」ということがなにを意味するのか。3月11日の午後、突然街を襲った津波から逃げる途中で、無理矢理子供と引き裂かれてしまった親御さんの話だ。

「あの日、港の近くにいた友達がクルマの中から電話をくれたんだけど、『水が入ってきた』ってところで、通話が途切れた」――。

現地では、このような会話が日常的に交わされている。筆者は、20年近く通信社に勤務した。豊富な戦地取材経験を持つ先輩記者から、地雷原の話、ゲリラに拉致されたときの恐怖などをつぶさに聞いてきた。

元戦場カメラマンの友人からは、アフリカ各地で頻発した内戦の様子を知らされた。壮絶な殺りくの詳細を教えられたため、一般の方々よりもはるかに精神面で打たれ強いと自負してきた。だが被災地で接する話は、簡単に筆者のメーターを振り切ってしまうものばかりだった。恥ずかしながら、こうした話に接し、押し黙り、うなずくしかすべがなかった。

津波から生き残った被災者は、生活再建に向けての一歩を踏み出したばかりだ。だが、彼らは心に傷を負ったまま、失業問題や住居に関する厳しい現実と直面している。筆者には心のケアに関する知識が全くない。ただ、被災者たちが心に負った傷は、専門家による治療が必要だということだけは即座に分かった。

地元紙や現地からの話を聞くと、各種のNPOを通じて心理療法士や精神科医が被災者のケアに動き出しているという。ただ、被災者が多数にのぼるため、1人ひとりへの対応はまだ手つかずなのだ。食糧や衣料品を送ったあとは、彼らの心と向き合う専門家を現地に送り込む仕組み作りが急務だ。

●DNA鑑定が持つ重み

「宮城など3県警、不明者家族のDNA採取へ」(河北新報5月3日)。これは宮城のブロック紙、河北新報の記事だ。被災地の実状を知らない向きには、ピンとこないだろう。

現地では、こんな声にも接した。「遺体安置所にじいちゃんを探しに行った。それらしい遺体を見つけた。顔は目と鼻の区別さえつかず、人間の形をしていなかったが、着衣でじいちゃんだと分かった」――。「引き波で流された小学生が50キロ離れた港で見つかった。名札が縫い付けてあったので、故人を特定することができた」――。

警察庁のまとめによると、5月17日現在、いまだに9093人の行方不明者が存在する。彼らを必死で探している被災者の数もこれ以上にのぼるのだ。安置所では、検視が済んだご遺体の写真がリストになっている。訪れる人々は、変わり果てた死者の膨大な写真リストをめくり、必死の思いで肉親や友人を探す。安置所を巡る被災者の中には、高齢者も少なくない。子供も存在する。

筆者は被災地での取材中、警察官がご遺体にブルーシートをかけている場面に遭遇した。ご遺体を直視したわけではないが、あの時の光景は目に焼き付いて離れない。帰京後、何度も夢の中にブルーシートが現れ、寝付けない日が続いた。

筆者でさえ、この状態なのだ。安置所を巡る被災者の心中はいかばかりか。繰り返しになるが、心のケアの専門家を急ぎ現地に派遣しなければならない。政府にその余裕がなければ、民間企業や団体でもかまわない。いち早く被災地全体の心を救わなければ、復興の妨げになってしまう。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110519-00000043-zdn_mkt-soci

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