情報家電、デジタル機器、ハイテク商品というのは、どんなときに買われるのだろうか? 購入を阻んでいるのは「値段が高い」ことや「習得の難しさ」だ。一方で購入する理由は、それによって得られる「利便性」や「満足感」だろう。これらの要素の心理的な距離が、時間の経過とともに接近してきて交差するあたりで、購買行動は起こる。
心の中に“X”字形のグラフがあって(縦軸は心理的なもので、横軸は時間)、ピョンと跳び越えて早めに買ったり、ずっと我慢していたものをようやく買ったりしている(図1)。性能や使いやすさが年々向上して、お値段が相対的に下がってくるのがハイテク機器の特徴で、いわゆる「ムーアの法則」が独特の市場原理を作り出している。
●若い人たちの間では、2~3年でスマートフォンが当たり前になる
そんな機器の中でいま売れているのが、「スマートフォン」である。量販店の販売データを集計しているBCNによると、2010年12月には、携帯電話販売台数の48%がスマートフォンだったそうだ。2011年2月でも、スマートフォンが44%を占めたという。
国内の携帯電話(PHSを含む)の契約数はざっと1億2300万台。年間の端末出荷台数は約3500万台である。そのうちの半数がスマートフォンという比率が今後続いたとしても、全体をひっくり返すには何年かかかる計算になる。だが、若い人たちの間では、2~3年でスマートフォンが“当たり前”になる可能性が高い。一部のユーザー層が、“X”字形のグラフの交差点付近に差しかかってきている。
「若い人たち」と書いたのは、いまの20代においては、メディアの利用スタイルが大きく変化してきているからだ。
●ソーシャルメディア利用率が高い20代
アスキー総研では、今年で2回目となる1万人調査「MCS(メディア&コンテンツ・サーベイ) 2011」の提供を開始している。これは、総務省の「通信利用動向調査」から割り出したインターネットユーザーの人口構成比・地域分布に沿うように抽出した1万人のパネルに対して、メディアの利用状況やコンテンツの消費状況を詳しく聞いたものだ。このMCSの集計結果で、我々の目を最も引いたのが、現在の20代のライフスタイルだったのだ。
例えば、地上波テレビを「視聴していない」と答えた人が、20代男性では13.5%もいる。1日の視聴時間を「5分未満」と答えた人も合わせれば19.4%と、実に5人に1人の割合となる。そもそもテレビを持っていないという話もあるから、当然とも思えるが。その分、ネット動画の視聴時間(図2)を調べると、20代男性は1日平均18.5分と、他世代より突出してネット動画を視聴している。これはネット動画を利用していない人も含めた平均値で、利用している20代男性のみに限定すると、実に1日平均62.8分もネット動画を見ている。
また、MCSでは3Dゲーム機からハイブリッド自動車、太陽光発電機まで、約60品目について「今後1、2年以内に購入したいか?」について聞いているが、多くの品目で20代の購入意向は低く、昔ならローンを組んででも買ったような商品を欲しがってはいない。ただし、スマートフォンについては、他の年代と同様かそれ以上に、購入意向者の比率が高くなっている。
若年層の「モノ離れ」と言われるとおりの結果だが、そんな中でも欲しいと思っているスマートフォンを、それでは、20代はどう使っているのだろうか。
スマートフォンで継続して利用している個別のアプリ名を世代別に集計すると(人気アプリから30本を選んで聞いた)、20代はSkypeで、30代は仕事系、40代は電子書籍など、世代によって利用アプリの傾向が大きく異なっていることが分かる(図3)。
20代はしっかりSkypeを活用していて、飲み会の後、コンビニでそれぞれお酒を買って帰って自宅で「Skype二次会」なんて話もある。一方、30代で利用率が高い「BB2C」は、2ちゃんねるビューアだ。
図4は、スマートフォンで利用しているアプリのジャンルを、世代別に見たものだ。他の世代と同様、ニュースや乗り換え案内の利用率が高いが、20代が最も利用しているのはゲームだ(10代も、ほかの用途に比べてゲームが突出していることにも注目したい)。また、他の世代に比べてSNSやTwitterの利用率も高くなっている。
20代はコミュニケーションツールとして、あるいはメディアデバイスとしてスマートフォンを使っているわけだが、注目すべきはやはりソーシャルメディアとの関係だ。
図5は、スマートフォン利用者におけるmixiとTwitterの利用率を世代別に集計したものだ。20代のスマートフォン利用者の50.0%はmixiを、50.9%はTwitterを使っており、他の世代に比べてもその利用率は高くなっている。ちなみに、iPhone利用者とAndroid利用者では、わずかではあるが、後者のほうがソーシャルメディアの利用率が高い。
このソーシャルメディアの利用率の高さは、大きな意味を持つのではないか? ソーシャルメディアは、利用者の意志決定や行動様式にまで、強く影響してくるはずだからだ。
●iPhone購入意向者より、Android購入意向者のほうが“普通”?
スマートフォンの購入意向率を性・年代別で集計してみると(図6)、20代では男性よりも女性がiPhoneを欲しがっているということが分かる。グラフにはないが、同じ20代女性でもとくに20代後半(25~29歳)のiPhoneの購入意向率は突出している。なお、10代のiPhone購入意向が高いのも見逃せない点だ。このグラフは購入意向者に占める年代の比率だが、それぞれの性・年代に占める購入意向率で見ると、実に「10代が最もiPhoneを欲しがっている」という結果となる。
一方、Androidの購入意向率では、女性の比率は男性の半分程度になっている。昼間のバラエティ番組でもアプリが紹介されるほどiPhoneがポピュラーな存在になっているのに対して、Androidはまだ認知が低いからだろう。もっとも、全体としてはiPhoneの購入意向率が10.5%であるのに対して、Androidの購入意向率は12.2%と、わずかながらAndroidのほうが高い。
性別・年代以外の傾向について、図7はiPhone/Androidの購入意向者と、アンケート回答者全体の「好きなコンテンツ」を比較したグラフである。Android購入意向者では、「ガンダム」、「エヴァンゲリオン」、「攻殻機動隊」が飛び出している。ただし、これは「アニメ好き」が多いというよりも、購入意向者の中心が30代後半の男性だからだろう。
ここで最も注目すべきは、Android購入意向者と全回答者の傾向がかなり似ているということだ(Android購入意向者と全回答者を表すグラフが、同じように上下している)。図8は「よく遊びに行く街」について集計した結果だが、こちらからも同様の傾向が見て取れる。
iPhone利用者には、発売当初から「Mac」利用者の割合が多い、「自営業」の比率が高い(デザイナーなどがここに含まれる)などといった特徴があった。一般の利用者の割合も増えてはいるが、これからiPhoneを買う人にも、まだ“ユニークな層”が多いということだ。
●持っているスマートフォンの機種で、その人の嗜好を知る
ここまで見てきて、iPhoneとAndroidでは、購入意向層にかなりの違いがあることが分かる。そして、この記事のタイトルでもある「これからスマートフォンを買うのは誰か?」という問いに対する答えとしては、次のようになるだろう。
iPhoneは、10代や20代後半の女性層に注目だが、全体としては、iPhone独特のユーザー層に支えられて伸びていくだろう。
Androidについては、現在のところ、購入意向者は30代後半をピークにして男性が3分の2近くを占める。これは、Androidの認知が進むことや、現在の半分程度のサイズの女性向け端末(海外ではすでに販売されている)の登場などによって、変化していくだろう(もっとも、この領域にはアップルも「iPhone mini」を投入するという噂もある)。全体としては、Android端末は従来の携帯電話の延長線上に捉えられている部分が大きい。いまのところ、利用者の職業としては営業職やエンジニア、管理職にやや偏っているAndroidだが、iPhoneに比べると、実は購入意向者の嗜好は一般的なものに見える。この“フツーさ”が、Androidの市場を一気に広げる材料となるのではないだろうか?
しかし、今後のスマートフォン利用者の姿として注目すべきは、スマートフォンで積極的にソーシャルメディアを利用する人たちだ。そうした層が、「ソーシャルネイティブ」ともいうべき新しい日本人のひとつの姿となってくる。スマートフォンが、かつての自動車のように、生活スタイルを決める最も重要なファクターになる可能性もあると思う。これを、スマートフォン利用者の最終的なゴールと考えて、ビジネスを組み立てるのがよいのではないか?【遠藤諭、アスキー総合研究所】
●遠藤 諭(えんどう さとし)
1956年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年アスキー入社、1990年『月刊アスキー』編集長、同誌編集人などを経て、2008年より現職。著書に、『ソーシャルネイティブの時代』、『日本人がコンピュータを作った! 』、ITが経済に与える影響について述べた『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著)など。各種の委員、審査員も務めるほか、2008年4月より東京MXテレビ「東京ITニュース」にコメンテーターとして出演中。
コンピュータ業界で長く仕事をしているが、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』の編集を手がけるなど、カルチャー全般に向けた視野を持つ。アスキー入社前の1982年には、『東京おとなクラブ』を創刊。岡崎京子、吾妻ひでお、中森明夫、石丸元章、米澤嘉博の各氏が参加、執筆している。「おたく」という言葉は、1983年頃に、東京おとなクラブの内部で使われ始めたものである。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110502-00000013-zdn_mkt-soci