福島県産の日本酒の人気が急回復している。福島第1原発事故による風評被害や物流中断の影響で、3月は売り上げが落ち込んだが、4月になって首都圏を中心に全国から注文が増加した。「福島の酒を飲んで応援したい」という顧客が多いためで、各酒造会社は「4月の売上げは昨年を上回る勢い」と話している。
大七酒造(二本松市)の倉庫には一升瓶6本入りのケースが山積み。大型トラックで連日、全国に出荷している。
担当者は「震災前より多いくらいだ」と出荷に追われる。3月の売上高は前年同月比で2割減だったが、4月は上回る見込みだ。太田英晴社長は「首都圏だけでなく、取引がなかった地方も含め全国から注文が相次いでいる」と話す。
栄川酒造(磐梯町)も3月は前年比3割減だったが、4月は一転して好調。同社は「東北の酒を応援しようと、ここ1週間ぐらいで注文が急増した」と言う。
独自の義援金シールを貼り、売り上げの一部を被災者に贈ることも決めた。担当者は「注目されるのはありがたいこと。一過性のブームに終わらせないようにしたい」と意気込む。
県内の酒造業界には4月上旬まで、原発事故による風評被害の危機感が広がっていた。県酒造協同組合は、浜通り、中通り、会津の3地方から日本酒を1本ずつ選んで検査し、放射性物質が検出されないことを公表するほどだった。
人気のV字回復について、酒卸大手の日本酒類販売(東京)は「被災した東北3県の地酒に、全国が注目している。これまで出荷が少なかった西日本でもキャンペーンが盛んになっている」と説明する。
原発事故は収束せず、多くの県民が避難したままで、県内消費は冷え込んでいる。末広酒造(会津若松市)は「県内の売り上げ減を、首都圏などの注文で補っている状況」と話す。
県酒造協同組合は「出荷先が県内中心の酒造会社も多い。本格的な回復のためには、足元の復興が不可欠だ」と地元にも期待している。
(熊谷吉信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110430-00000010-khk-l07