アワビやウニの好漁場だった三陸沿岸の海中で、海藻が枯れて荒れ果てる「磯焼け」が大規模に発生する恐れがあることが、岩手県の調査でわかった。津波で押し流された大量のがれきや土砂が日光を遮り、海藻を枯らすのが原因。三陸の浜には「津波の後5年は、海からアワビやウニが消える」という言い伝えがあり、専門家は「漁場の復旧に5~10年かかる」とみている。【奥山はるな】
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「相当ひどい」。22日、大船渡湾の被害状況を調べた岩手県水産技術センターの後藤友明・主任専門研究員は船上でうなった。家屋が波間に浮き沈みし、転覆船などから流れ出た重油が漂う。漁協が数億円かけて設置した定置網に養殖いかだが絡まり、くしゃくしゃになって流されていた。
魚群探知機で海中を調べると、がれきとみられる多数の物体が海底に転がっているのを発見。障害物が多すぎて大船渡港への停泊を断念し、状況をカメラに収めて引き揚げた。岩手県は4月に入り、釜石湾、唐丹湾、越喜来湾でも調査。陸上の被害が大きいほど、海中のがれきも多くなる傾向があったという。
後藤研究員は「今後、湾の各地にがれきが沈み、点々と磯焼けが発生する可能性が高い。海流で運良くがれきが流されても、一度枯れた海藻の回復は数年かかる」と話す。津波による海底環境の変化に詳しい東北学院大の河野幸夫教授も「生物や海藻が津波で大量に流れ込んだ砂やがれきに埋まっている」とみる。
河野教授は宮城県石巻市雄勝町大浜でも、もともと海底にすむカレイが点々と打ち上げられているのを発見。「海底に生息するアワビやウニなどにも被害が出ている」と推測する。04年のスマトラ沖地震で津波被害を受けたインド・チェンナイ海岸でも、岸から200メートルの範囲に砂がたまり、貝類が死滅していたという。「海藻も同様で、三陸沿岸でも磯焼けが拡大するだろう」とみる。
◇「漁場復旧に5~10年」
政府は22日に閣議決定した第1次補正予算案に、津波によるがれき処理費用3519億円を盛り込んだが、作業開始は5月以降の見込み。秋までにがれきが撤去され、人工培養した種苗を放ったとしても、昆布の成長には1~2年、アワビの成長には3~4年必要という。河野教授は「漁場の復旧には5年から10年かかる」とみている。
また、種苗の人工培養も危機に瀕(ひん)している。岩手県栽培漁業協会では昨年度、人工ふ化したアワビ稚貝234万個、ウニ幼生241万個を放流したが、沿岸のふ化施設は津波で壊滅。再開のめどは立たないという。
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