東日本大震災の被災地では保険医療にも混乱が及んでいる。被災者は保険証を失って窓口負担なしで受診できる措置が取られているが「全額負担させられた」との苦情が続出。一方、医療現場からは「事務処理能力を超えている」との反発が出ている。
「ただでさえ現金が大事な時期に、つらいですよ」。福島県いわき市の自営業、折笠修さん(52)は表情を曇らせた。保険証は津波で自宅ごと流された。被災後、頭痛が続き、市内の病院で診療を受けると、保険証がないとして全額の支払いを求められ7000円を払った。「これでは病院に行くのもためらってしまう」
厚生労働省は今回の震災で、地震や津波で自宅が全半壊した人、福島第1原子力発電所の事故で避難を余儀なくされた人などを対象に、窓口負担の猶予を認めるよう都道府県などに通知した。最終的には保険者(健康保険組合など)に全額負担を求め、被災者の支払いは免除する方針だ。
しかし、福島県国民健康保険課によると「全額負担させられた」との苦情や問い合わせが1日10~20件寄せられている。同じ被災地の宮城、岩手両県でも苦情が多いという。同課は「免除の措置があることを知らない医療機関が多いのではないか」とみる。
これに対し、医療機関からは反論の声が上がる。いわき市にある公立病院の事務担当者は「免除の措置は知っているが、震災の混乱で事務処理能力を完全にオーバーしている」と語気を強める。
保険証をなくした被災者が窓口負担の猶予を求める時は、自身の入っている保険の種類などを自己申告する。医療機関側は、それに基づいて保険者に問い合わせ、裏付けを取る必要がある。
だが、この担当者によると、窓口には避難生活で体調を崩した人などで常に長い行列ができており、確認作業に時間を割く余裕はないという。「払える人にはいったん払ってもらうしかない」のが現状だと説明する。
厚労省医療課は「医療機関の手間にはならないという前提で通知を出した。被災者の復興支援が趣旨なので、きちんと処理してほしい。被災者自身は免除される立場にあることをしっかり主張してほしい」と話している。【渡辺暢】
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