東日本大震災で死者・行方不明者が1万3千人を超えた宮城県で、かつて震災に見舞われた神戸と新潟から、被災経験を生かした支援が広がっている。口の中を清潔に保てず、細菌が肺に入った高齢者が相次いで死亡した神戸市からは、歯ブラシが届いた。新潟県中越地震で支援物資の届き方に差があった同県長岡市からは、困窮する地域へ温かい鍋が振る舞われた。かつての被災地の願いはひとつ。「自分たちと同じ経験は、してほしくない」 (藤原由梨、桑村朋)
地震から1週間後、仙台市健康増進課主任の高橋明子さん(47)の卓上電話が鳴った。「歯ブラシ1万本、そちらに送れそうです」。神戸市地域保健課からだった。
平成7年の阪神大震災では、震災後2カ月以内に肺炎で223人が亡くなった。「震災関連死」922人の死因で、最多の24%を占めた。水不足の避難所生活で、十分な歯磨きができず、口の中の細菌が肺に入って「誤嚥(ごえん)性肺炎」を発症した高齢者が多かったとみられ、避難所での口腔(こうくう)ケアが、高齢者の命を守ると指摘されるようになった。
この経験を持つ神戸市の動きは、速かった。緊急に予算を組み、18日に大人用、子供用歯ブラシ計1万1千本、口をゆすぐデンタルリンス190本を仙台に発送。19日には、津波被害の大きかった仙台市若林区の避難所に届けられ、啓発ポスターでの歯磨き周知も行われた。
物資が届いた六郷中学校に避難する森しめさん(76)は「水道が復旧したのが3、4日前。入れ歯なので、口をゆすげるのが便利だった」と喜んだ。
高橋さんによると、仙台市でも災害時対応マニュアルはあったが、実際に被災すると不備もあった。混乱の中で、神戸からの支援は力強く、また神戸側の「これ以上、誤嚥性肺炎の死者を生まない」という強い決意が感じられた。現在、仙台市の避難所で、肺炎による死者はいない。
一方、16年の新潟県中越地震で被災した長岡市からは、宮城県石巻市中心部の被災者に向けて、地元特産の素材を使った温かい野菜鍋500人分が振る舞われた。
炊き出しが行われたのは、大震災から約2週間後の27日。炊き出しを行った長岡青年会議所の平石祥吉さん(37)は「経験上、被害の少ない避難所に、物資が届かなくなるのが2週間たったころ。石巻市中心部は、津波被害の大きかった沿岸部に比べ、物資が少ないと聞いたので助けたかった」と話す。
避難所生活も落ち着きだし、生命の危険が薄れたこの時期は、少しの楽しみがほしくなるという。
「おいしい食事が食べたくなる、この時期だからこそ、温かい鍋で体を癒やしてもらえれば」
被災地からの温かい“ノウハウ”のリレー。先の仙台市職員、高橋さんは「あってほしくないが、万が一、次の災害が起きたときには、自分たちの経験を伝えたい」と誓っている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110330-00000530-san-soci