エアコン使ったら「せき」「鼻水」が出るように…なぜ? 放置は危険? 呼吸器専門医が教える原因&対策
気温が高くなってきたことで、自宅や職場でエアコンを使うようになった人は多いと思います。ただ、中にはエアコンの使用後、せきや鼻水などの症状が出るようになった人がいます。SNS上では「エアコンをつけると、謎のせきが出る」「鼻水が止まらなくなった」「エアコンで夏風邪をひいたかも」という内容の声が上がっています。
エアコンの使用によりせきや鼻水が出る場合、どのような原因が考えられるのでしょうか。夏風邪だと思って症状を放置した場合、どのようなリスクが想定されるのでしょうか。草ヶ谷医院(静岡市清水区)・院長で、呼吸器専門医・指導医の草ヶ谷英樹さんに聞きました。
カビやほこりによるアレルギー反応の可能性
Q.エアコンの使用後にせきや鼻水が出る場合、どのような原因が考えられるのでしょうか。病気の可能性はあるのでしょうか。
草ヶ谷さん「エアコンの使用後にせきや鼻水が出る原因は、大きく分けて『カビやほこりによる直接刺激』『湿度や温度などの環境要因』『アレルギー反応(特に夏型過敏性肺炎)』が考えられます。順番に説明します」
(1)カビやほこりによる直接刺激
エアコンの内部は湿気がこもりやすく、カビやほこりがたまりやすい環境が整っています。特に掃除が行き届いていないエアコンでは、内部にカビがびっしり生えていたり、ホコリがたまっていたりすることも珍しくありません。
エアコンを使用するとこれらのカビやほこりが空気中に放出され、それを吸い込むことで気道を刺激し、せきや鼻水などの症状が引き起こされます。気管支ぜんそくの人は、ほこりに含まれているダニのふんや死骸など、「ハウスダスト」を吸い込むことで、ぜんそくの発作が出てしまうことがあります。
(2)湿度や温度などの環境要因
エアコンが作動すると、室内の空気が乾燥しやすくなります。乾燥した空気は鼻や喉の粘膜を刺激し、せきや鼻水の原因となります。
また、急激な温度変化は、鼻の粘膜に刺激を与えるため、鼻水が出やすくなります。例えば、「寒暖差アレルギー」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これは正確にはアレルギーではなく、冷たい刺激による神経反射によって生じる鼻水で、血管運動性鼻炎と呼ばれています。
(3)アレルギー反応(特に夏型過敏性肺炎)
エアコンから放出されるカビは、アレルギー性の肺炎を引き起こすことがあります。夏型過敏性肺炎という病気は、「トリコスポロン」というカビに対するアレルギー性肺炎です。肺の中にトリコスポロンが入り、それに対して過剰な免疫反応が起きることが原因です。
夏型過敏性肺炎の症状は、せきや息切れ、発熱が有名で、エアコンの使用後にこれらの症状が現れることがあります。ただ、トリコスポロンを吸ったら、必ず発症するわけではありません。「体質的に発症しやすい」「カビにさらされる時間が長期にわたる」など、ある程度の条件がそろうと起こります。
Q.エアコンの使用が原因でせきや鼻水などの症状が出る場合、どのように対処したらよいのでしょうか。薬を服用せずに、自然に症状が治ることはあるのでしょうか。
草ヶ谷さん「次の対策に取り組んでください」
(1)エアコンの掃除
エアコンのフィルターを定期的に掃除することが重要です。これにより、カビやほこりの放出を防ぐことができます。
(2)室内の湿度管理
室内の湿度を適度に保つことが有効です。エアコンを使い続けると、室内が乾燥し過ぎてしまうことがあります。適宜換気をしたり、使用時間を調整したりしてみることで、極端な乾燥を防ぐのが大切です。
(3)症状が数日続く場合は受診
軽度の症状であれば、上記の(1)や(2)の対策で自然に治ることもあります。しかし数日経過しても症状が続く場合や症状が悪化する場合は、医療機関を受診することをお勧めします。特にぜんそくの急性増悪や、夏型過敏性肺炎の可能性がある場合、適切な診断と治療がとても大切です。
症状を放置するとどうなる?
Q.では、夏風邪だと思って症状を放置すると、どのようなリスクが生じる可能性があるのでしょうか。
草ヶ谷さん「主に、次の3つのリスクが生じる可能性があります」
(1)症状の悪化
初期の軽度の症状が悪化し、慢性的なせきや鼻水に発展する可能性があります。特にカビやほこりによる刺激が継続的に続く場合、気道や鼻腔(びくう)の炎症が進行しやすくなります。
(2)夏型過敏性肺炎の進行
夏型過敏性肺炎の初期症状を見逃すと、病気が進行してしまう可能性があります。放置すると肺の組織が線維化して硬くなるため、元の健康的な肺の状態には戻らず、慢性的な症状へと進行してしまうこともあります。重症化により、呼吸困難や肺機能の低下を引き起こすこともあります。
(3)他の呼吸器疾患を発症するリスク
気管支ぜんそくの患者のほか、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)といった呼吸器疾患がある人は、症状悪化の原因を放置している限り、なかなかよくなりません。むしろ、感染症など他の呼吸器疾患を引き起こす恐れがあります。先述のように、エアコンの掃除や室内の湿度管理などにより、環境を整備することは、重要な治療の一つです。
Q.家庭用のエアコンだけでなく、オフィスのエアコンの使用後にせきや鼻水が出ることはあるのでしょうか。
草ヶ谷さん「次のような理由から、オフィスのエアコン使用後にせきや鼻水が出ることも十分に考えられます」
(1)多くの人が利用
環境によって異なるため、一般論になりますが、オフィスは多くの人が利用するため、エアコンのフィルターや内部に多量のカビやほこりがたまりやすいです。これにより、アレルギーの原因となる物質である「アレルゲン」が増えやすい環境となっていることがあります。
(2)定期的なメンテナンスが行われていない可能性
家庭用のエアコンと比較して、オフィスのエアコンは定期的なメンテナンスがどの程度確実に行われているのか、利用者が把握しにくいです。
実は家庭用のエアコンよりも、汚れやカビが長期間放置されている場合もあるかもしれません。例えば、普段はあまり使わない部屋のエアコンをつけた瞬間に臭いということもありますよね。
(3)空調管理の難しさ
オフィスでは、個々の過ごしやすい温度や湿度に対応することが難しいため、一部の人にとっては不快な環境になることがあります。乾燥や温度変化に敏感な人は、これによりせきや鼻水などの症状が引き起こされることがあります。
エアコン使用後にせきや鼻水が出る原因と対処方法、そして放置した場合のリスクについて、解説しました。夏にエアコンを快適に、安全に使うために、こうした知識を活用してみてはいかがでしょうか。