生活楽しむと要介護認知症リスク減
心理的Well-beingが循環器疾患などの慢性疾患と関連することは知られているが、認知症との関連についての研究は少ない。順天堂大学大学院公衆衛生学の田島朋知氏、准教授の野田愛氏、主任教授の谷川武氏らは、生活を楽しんでいる意識、精神的ストレスと認知症の関連を検討。ストレスが少ない~中程度、生活を楽しんでいる意識が中~高程度の高齢者は介護を要する認知症のリスクが低いとの検討結果を J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci(オンライン版) に発表した。
対象は、1990年時点で秋田県横手市、長野県佐久市、茨城県水戸市、高知県中央東、沖縄県中部の5保健所管内(呼称は2019年時点)に在住し、5年間の追跡調査時に45~74歳だった多目的コホート研究JPHCの参加者3万8,660人。心理状態およびその他の交絡変数は、自記式質問票により聴取した。認知症については、2006~16年の介護保険を用いて確認した。
中央値で9.4年の追跡期間中に、4,462人が認知症と診断された。
ストレスが多いと生活楽しむ効果が打ち消される
解析の結果、生活を楽しんでいる意識が低い群に対し中程度の群では認知症リスクが25%〔ハザード比(HR)0.75、95%CI 0.67~0.84、P<0.001〕、高い群では32%
JPHC研究で脳卒中の発症登録が行われた2009年または2012年までに認知症と診断されたのは2,058人で、内訳は脳卒中の既往なしが1,533人、既往ありが625人だった。脳卒中の既往の有無にかかわらず、生活を楽しんでいる意識が低い群と比べて中程度の群、高い群ではいずれも認知症リスクが有意に低かった。
さらにストレスの影響を検討するため、自覚的ストレスについても調査。ストレスが少ないおよび中程度の場合、脳卒中の既往にかかわらず生活を楽しんでいる意識が中程度の群と高い群で認知症リスクが有意に低かった。一方、ストレスが多い場合では、生活を楽しんでいる意識が中程度の群のみ脳卒中後の認知症リスクが有意に低かったが、脳卒中既往がない認知症リスクと生活を楽しんでいる意識の程度の有意な関連は認められなかった。
以上の結果から、野田氏は「ストレスが多い群では生活を楽しむ意識の高さによる要介護認知症のリスクの低減が打ち消され、特に脳卒中が既往のない集団における認知症リスクの低下は見られなかった。しかし、ストレスが少ないおよび中等度の群においては、生活を楽しむ意識が高いほど要介護認知症のリスク低減と関連していた」と結論。「要介護認知症のリスクを減らすには精神的ストレスを管理し、生活を楽しむ意識を持つことが重要」と考察している。(栗原裕美)