「はしか」すでに昨年上回る12人感染、訪日客増で拡大の恐れも…ワクチン未接種の子供多く
極めて感染力の強い「麻疹(はしか)」の国内感染者数が今月21日現在で12人(暫定値)と、昨年1年間の感染者数を上回った。訪日外国人客数の回復が感染拡大につながる恐れがあるうえ、コロナ禍の「受診控え」で予防接種を受けていない子供も多く、医師らはワクチン接種を呼びかけている。(渋谷功太郎)
新幹線で感染拡大か
「免疫を持たない人が感染するとほぼ100%発症する」。加藤厚生労働相は16日の定例記者会見で、麻疹流行への警戒感を示し、感染が疑われる場合は公共交通機関の利用を控えることなどを呼びかけた。
きっかけは、インドから帰国後の4月27日に感染が確認された茨城県在住の30歳代男性だった。男性は発熱やせきの症状が表れた後、新幹線で新神戸から東京に移動しており、同じ車両に乗っていた東京都内の男女2人の感染が後に明らかになった。さらにこの男女と接触した5歳未満の子供2人の感染も確認された。
厚生労働省は、患者が公共の場を移動した結果、感染が広がったとみて事態を重大視。今月12日、各都道府県などに対し、保健所や医療機関に注意喚起するよう通知した。
接種率の低下
麻疹は2007、08年、若者を中心に国内で大流行した。しかし国が06年度から、公費で賄う定期接種を1歳時と小学校入学前の計2回に増やしたことなどが功を奏し、感染者数は激減。15年には世界保健機関(WHO)から国内に土着ウイルスが存在しない「排除状態」と認定された。
しかし、海外との人の往来が活発になると、ウイルスの流入リスクは高まる。コロナの水際対策で昨年の感染者は6人にとどまったが、現在は対策緩和で海外客が増加しており、政府や自治体は感染流行に神経をとがらせる。さらに懸念されているのが、ワクチン接種率の低下だ。
国立感染症研究所の21年度調査では、国民の抗体保有率は96・6%。集団免疫の獲得には接種率を95%以上に保つ必要があるが、国内の1歳時の接種率は21年度、93・5%と前年度を5ポイント下回り、12年ぶりに95%を割った。小学校入学前の接種率も93・8%(前年度比0・9ポイント減)と95%に届かなかった。
医師は危機感
都が今年1月に開いた対策会議では、都内自治体の担当者から「コロナの流行で、麻疹のワクチン接種を控える人が増えた」との声が相次いだ。
都は、子供のコロナ感染を恐れた保護者が医療機関での受診を避けたほか、発熱外来の逼迫(ひっぱく)で接種予約が取りづらくなったことが、接種率低下の理由とみる。
現場の医師らも危機感を強める。渋谷区の「かずえキッズクリニック」では、予防接種を受けていない子供の保護者にメールなどで接種を呼びかけている。川上一恵院長は「感染すれば、幼い子供の方が重症化しやすい。保護者は接種をしたか確認してほしい」と語る。
NPO法人「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろうの会」理事長の菅谷明則医師は「接種率が1%下がるだけで、流行の規模が拡大する恐れがある。保護者から子供にうつることもあるので、2回接種していない大人は今からでも接種するべきだ」と指摘する。
インフル収まらず
国内ではインフルエンザの流行も長引いている。
厚生労働省によると、5月15~21日の1週間に全国約5000か所の定点医療機関から報告された感染者数は9275人。1定点あたり「1・89人」で、流行の目安となる「1人」を大きく上回っている。
目立つのは学校での集団感染だ。宮崎市内の高校は今月中旬、生徒・職員計491人が感染し、臨時休校に。大分市内の高校で生徒497人の感染が判明したほか、東京都内でも複数の集団感染が確認された。
元墨田区保健所長で都感染症対策部の西塚至担当部長は、「コロナ禍の3年間にインフルエンザの感染者は減った。集団免疫が低下する中、コロナ対策を緩めたことが集団感染につながった可能性がある」と話す。
◆はしか=麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症。39度以上の高熱と発疹が出て、先進国でも1000人に1人が死亡する。感染力はインフルエンザの約10倍あり、感染者と同じ空間にいるだけで感染する恐れがある。マスクや手洗いでは防ぎきれない。