「被災度判定」人材が急減、判断遅れで避難生活長期化懸念…1万1000人が1800人に
地震で被災した建築物が復旧可能か評価する「被災度区分判定」の有資格者が、ピーク時の2割以下に急減している。一般財団法人・日本建築防災協会(東京)によると、熊本地震が発生した2016年の年度末には全国で約1万1000人に上ったが、今年3月末時点では約1800人に落ち込んだ。復旧できる建物の判断が遅れれば、避難生活の長期化などが懸念され、関係者は人材不足に気をもんでいる。(中村直人)
有事に不足
「これだけ少ないと、心もとない」
熊本県建築士事務所協会理事の東誠一さん(47)(熊本市東区)は危惧する。同県では17年度末は約600人いたが、順次、資格の有効期限が切れて、3月末時点は15人と3%程度に激減。「地震時に、すぐ活動できる人員の確保が必要だが……」。東さんの表情は険しい。
同判定は、専門的な講習を受けて「技術者証」を持つ民間の建築士らが、建物所有者らの依頼を受けて有償で実施する。沈下や傾斜、損傷の状況などを確認し、引き続き居住可能か、どの程度の補修・補強を行うべきかを判断する。
復興迅速に
大地震時に、二次被害を防ぐため自治体が行う「応急危険度判定」は緊急的な意味合いが強い。そのため、立ち入らないように求める「危険(赤)」との判定となっても、後に「被災度区分判定」で詳細に調査すると、復旧可能の場合もある。
解体される建物を減らせれば、避難生活を短縮化できたり、仮設住宅の過剰な供給を抑えられたりする。地域コミュニティーの存続につながり、迅速な復旧・復興に役立つ利点もある。
国土交通省国土技術政策総合研究所などが熊本地震の被害調査の一環で行った判定では、応急危険度判定で「危険」とされた熊本市西区のマンションが、部分的な補修で対応できたケースもあった。11年の東日本大震災では、文部科学省が岩手や宮城など7県に有資格者を派遣し、学校施設など約700棟を判定した。
5年で失効
有資格者は、04年の新潟県中越地震で人材不足が表面化したのを機に、全国で講習会を開いて育成しており、大きな地震が起きるたびに増えてきた。熊本地震発生直前には全国で約6900人いたが、最新の知見を学んでもらうため期限は5年間で、改めて講習を受けて更新しないと失効する。熊本地震を機に資格を取得した人も多かったが、その多くが失効して21年度末に保有者が2000人を割り、22年度末は過去最少の1811人となった。
速やかな調査には初動で活動できる有資格者の育成が欠かせない。日本建築防災協会の石崎和志・専務理事は「災害時に人手が不足するのは明らか。講習参加を呼びかけたい」と語る。
AI活用の動きも
技術者不足を、先端技術で補おうという動きも出ている。九州大の吉岡智和教授(建築構造学)は人工知能(AI)を活用し、被災マンションの外壁の画像から、ひび割れの幅や剥がれ落ちたコンクリートの割合をはじき出し、被災度を判定する技術開発に取り組んでいる。熊本地震の画像データを読み込ませたところ、95%以上の正答率で損傷した部分が検出できたという。
実用化を目指しており、住民が手軽に判定を出せるようにしたい考えだ。