「腸炎ビブリオ」増殖スピードが速く調理器具を介した2次感染も多い【感染症別 正しいクスリの使い方】
【感染症別 正しいクスリの使い方】
腸炎ビブリオ
◇ ◇ ◇
魚介が原因で起こる食中毒といえば、アニサキスが頭に浮かぶ方は多いと思いますが、個人的には魚介で起こる食中毒といえば「腸炎ビブリオ」です。
腸炎ビブリオは、主に海水中に生息する細菌で、水温が15度以上になると活発に活動します。海水温度が高く、海水中に腸炎ビブリオが多い時季に取れた魚介類には腸炎ビブリオが付着しているケースが多く、漁獲後や流通過程、調理中などの不適切な取り扱いによって増殖し、食中毒の原因になります。
また、まな板や調理器具を介した2次汚染による食中毒も発生しています。調理器具はしっかり除菌を行うことが大切です。腸炎ビブリオは他の食中毒の原因菌よりも速く増殖できる特徴があり、条件が整った時には10分間に1回の割合で分裂します。大腸菌は20〜30分間に1回ですから、腸炎ビブリオは3倍近い速さで分裂することになります。
潜伏時間は6〜24時間(短い場合で2〜3時間)で、激しい腹痛や下痢などが主症状です。発熱、吐き気、嘔吐を起こす人もいます。他の細菌性食中毒と同様に、通常は抗生物質を使わなくても数日で回復します。脱水に対する治療を最優先するのも他の細菌性食中毒と同じです。
腸炎ビブリオの原因菌は「Vibrio parahaemolyticus」という名前の細菌です。ビブリオの仲間には、コレラ菌(Vibrio cholerae)やビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)などもよく知られています。
ビブリオ・バルニフィカスは、いわゆる「人食いバクテリア」と呼ばれる細菌のひとつです。これも海水中に生息していて、海でケガをした時などに傷口から侵入します。とくにもともと肝疾患がある場合には、敗血症や壊死性筋膜炎など、全身性の致死性疾患の原因になるので要注意です。一般的に抗生物質による治療が有効なのですが、急激に悪化するケースがあるため、できるだけ早く医療機関で治療を開始する必要があります。
(荒川隆之/薬剤師)