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大地震から命を守る 今すぐできる対策は
日本は世界的に見ても地震が多く、北海道から沖縄までどこでも最大規模の地震が発生する可能性がある。また事前に発生が予測できる台風や大雨と異なり、大地震は必ず不意打ちで発生するため、事前準備の有無がそのまま生死に直結する。避難生活のつらさを語ることができるのは、生き延びた人だけだ。自分と家族の命を守る地震対策を今すぐ行ってほしい。
1) 地震による被害を分類すると
防災対策の原則は、生じる災害と1:1の対策を行うことだ。大地震でどのような影響が自分と家族に生じるのか。影響、あるいは主要な死因を分類すると、次の5種類となる。
1.揺れによる建物倒壊や家具の転倒
2.火災
3.津波
4.土砂災害
5.避難生活などによる震災関連死
1.揺れ圧死
どのような地震でも必ず発生するのが強い揺れだ。 揺れによる建物倒壊や家具の転倒で特に大きな被害を出した地震としては、1995年の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)が挙げられる。
阪神・淡路大震災の死亡原因
2.火災焼死
大地震による火災の影響は2種類ある。ひとつは建物が単体で燃える、いわゆる「普通の火災」だ。ガスコンロやストーブなどだけでなく、 屋内配線や家電のショートなどの電気火災も火元になるため、消火器などによる初期消火の準備が必要である。 火災による被害は、前述の阪神・淡路大震災でも大きく生じている。
もうひとつは「地震火災」で、代表的な例は1923年の関東大震災(関東地震)だ。 古い木造住宅が密集する地域を大地震が襲い、火災が発生した際に地域が全焼するまで燃え続けるような延焼火災を意味する。 状況によっては、炎が竜巻状になって周囲を焼きつくしながら移動する「火災旋風」に発展することもある。
関東大震災と東京の復興
1923(大正12)年9月1日、地震直後に出火し燃え上がる有楽町付近を数寄屋橋方向から見る人々。 中央右は塩瀬総本店。煙の向こう側に警視庁がある。左の鉄道ガードの奥は日比谷交差点方向。 この時点では、迫りくる火災の広がりや危険さをまだ感じていないようだ
(著作者名/共同通信イメージズ)
首都直下地震の被害想定でも最大の死因は地震火災とされており、自宅が木造住宅の密集地域にある場合は、大地震直後の避難計画が必須となる。
3.津波溺死
2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)や、1993年の北海道奥尻島地震(北海道南西沖地震)では、津波による被害が死者の大多数を占めた。 海で地震が発生した場合はどこでも生じる可能性があり、南海トラフ地震でも津波による被害が多く想定されている。
東日本大震災における死因
家具倒壊や建物単体の火災と異なり、津波を個人の努力で無効化することはできない。 自宅が津波に巻き込まれる地域にある場合は、とにかく安全な高台やビルへ避難することしか命を守る手段がない。 特に南海トラフ地震は、想定される震源域が陸地に近いため、早ければ数分で津波が到達する地域もある。 揺れが収まった瞬間に自宅を飛び出せるような避難の準備が必要である。
4.土砂災害窒息死
北海道で震度7
地震による土砂崩れで倒壊した建物の周辺を捜索する自衛隊員ら=2018年9月7日午前9時7分、北海道厚真町(共同通信社ヘリから)
(著作者名/共同通信イメージズ)
2008年の岩手・宮城内陸地震や、2018年の北海道胆振東部地震では、土砂災害による被害が多発した。都市部や平野でも崖などが崩れる可能性は常にあるが、特に山間部で大地震が発生した場合は大きな被害をもたらす。土砂災害も、個人の努力で被害をなくすことはできない。また地震と同時に生じた場合は、避難をする間もなく巻き込まれる恐れがあるため、事前・事後の両方の対策が必要だ。
事前対策としては、自宅を土砂災害が生じる場所に建てないこと。建てる場合は頑丈なコンクリート製にすること、寝室を崖から離れた2階以上の部屋にすることなどが必要だ。事後対策は、避難の準備だ。地震発生後、とりわけ雨が降り始めた場合などは、津波と同じような対応が必要である。
5.避難後震災関連死
地震による直接的な影響は免れたものの、その後に命を落としてしまうのが震災関連死である(地震以外の場合は「災害関連死」)。 震災関連死は高齢者や持病がある人に被害が集中する傾向がある。避難生活で体調を崩したり持病が悪化したりすることが原因だ。 これを招く要因としては、厳しい避難生活そのものが挙げられる。
熊本地震
出所:熊本県より筆者作成
トイレが不足するために飲食を控えたり、さらに同じ姿勢で動かない状態が長時間続いたりするために生じる「エコノミークラス症候群」。体を動かさなくなることで体機能が衰えてしまう「廃用症候群(生活不活発病)」。歯磨きやうがい、入れ歯の洗浄が出来なくなることで生じる誤嚥(ごえん)性肺炎。普段服用している薬を失うことで持病が悪化してしまう慢性疾患など、さまざまである。こうした被害を防ぐためには、避難生活をできるだけ普段の生活に近づけるための防災備蓄などが必要となる。
2) 命を守る方法は
では、これらの影響から自分と家族の命を守るために、どのような事前対策を行うことができるだろうか。具体的に並べると次の通りである。
1.引っ越し
2.建物の耐震化
3.室内の安全対策
4.避難の準備
5.防災備蓄
■引っ越しできるならば最も有効
究極の対策は「引っ越し」だ。津波や土砂災害が発生しない場所で、頑丈な建物に住むことができれば、地震対策の大部分は完了したと言える。地震に限らず防災で最も有効なのが、「そもそも災害が生じない場所に住む」ことなのである。
これからアパートを探す学生や新社会人、あるいは住み替えで新居を探すといったライフイベントが控えているのであれば、ハザードマップを見て津波や土砂災害が生じない場所であることを必ず確認してほしい。最低でも「新耐震基準」を満たした、できるだけ新しい建物を探そう。
■補強・リフォーム助成金も利用
とはいえ、大部分の方にとって地震対策のために引っ越すのは難しいだろう。この場合に行うべき対策は「建物の耐震化」だ。日本の建物は、建築基準法に定められている耐震基準で、地震に対する頑丈さが設計されている。この基準は大地震で大きな被害が出るたびに改正され、新しい基準に従うほど頑丈さが増していく。
この中で特に重要なのが1981年6月1日の改正だ。この日付より後に「建築確認申請」を受けて立てられた建物を「新耐震基準」と呼び、これより古い建物は「旧耐震基準」と区分されている。過去の大地震を見ても、新基準か旧基準かによって倒壊率が大きく違っているのだ。
そのため自宅が旧耐震基準の建物である場合は、まず耐震診断を受ける。地震に耐えられないとの結果が出た場合は、他の対策を行う前に補強・リフォームを行わなければならない。なお旧耐震基準の木造住宅については、多くの自治体が耐震診断やリフォームに対する助成金を出しているので、該当する場合はこうした制度も利用するとよいだろう。
■転落・落下防止家具に襲われないために
倒壊の恐れがひとまずない場合は、室内の安全対策を行う。具体的には以下の通りだ。
実施内容 詳細
転落防止 たんす、クローゼット、本棚、食器棚、冷蔵庫など背の高い家具や家電、またはドアや通路などの避難経路をふさぐものを固定する。条件が許せば、金具を使って固定する方法が最良。難しい場合は粘着マット式の固定器具や突っ張り棒などを利用する。
落下防止 家具に収納されている重量物にも落下防止の対策をする。上記「背の高い家具」の扉や、キッチンのつり戸棚など。揺れを感知して扉をロックする耐震ラッチやベルトなどを用いて固定する。
移動防止 大型テレビやキャスター付きの家具など、揺れると移動して衝突の危険がある家具・家電を固定する。大地震の際は室内を文字通り「飛ぶ」ように移動するため、特にリビングのテレビなど大型で部屋の中央にある物は必ず固定する。
飛散防止 食器棚の扉や窓などガラスが使われている箇所。割れたとしても飛び散らないように対策を行う。けがの原因になるほか、床に散乱すると避難の支障になる。特に津波や土砂災害が発生する地域では必須。飛散防止フィルムなどを貼り付ける。
初期消火 大地震直後は消防車などが出動できない恐れがある。自分と家族の命だけでなく、地域の安全を守るためにも必要。住宅用の消火器やキッチン用の消火スプレーなどを準備する。
■避難計画ハザードマップと非常持ち出し袋
自宅が津波・土砂災害・地震火災などの影響を受ける地域にあるかどうか、まずは「ハザードマップ」を見て把握しよう。津波と土砂災害については、国土交通省の「重ねるハザードマップ(https://disaportal.gsi.go.jp/maps/)」が便利だ。
サイトにアクセスしたら、住所を入力したり地図を移動・拡大したりして調べたい場所を表示する。ページ左にある「災害種別」メニューから洪水、土砂災害、津波のいずれかを選ぶ。三つまとめて見ることもできる。
自宅が影響を受ける地域にあったら、避難の準備をすぐに始めよう。避難先には「避難場所」と「避難所」の2種類があり、命を守るために移動するのは「避難場所」である。災害の種類ごとに異なるため、地元自治体のハザードマップで確認する。
次に「非常持ち出し袋」を用意しよう。素早く安全に移動するのに必要な道具を中心に入れる。食料品や着替え、毛布など避難生活で必要な道具は最小限でよい。または別のかばんに入れておき、余裕があれば両方持っていく。
■安全なら在宅避難ローリングストック
熊本地震1週間
熊本地震で避難所となった中学校の体育館=2016年4月18日、熊本県南阿蘇村
(著作者名/共同通信イメージズ)
避難所や自宅で不便な生活が続くと、体調を崩したり持病が悪化したりする人も出てくる。最悪の場合は命を落とすことにつながる(震災関連死)。こうした状況を防ぐために最も有効な方法は、一時的に被災地を出て親戚や知人の家に身を寄せることだ。
難しい場合は、避難所へ行かずに自宅生活を継続する「在宅避難」の準備をしておこう。避難所での生活が快適とはまだまだ言えない。トイレの不足や、感染症の蔓延は深刻だ。
非常用トイレ・カセットコンロなどのライフラインを代替する道具、飲料水・食料品・日用品などの生活物資は十分用意しておこう。あとは自宅にあるものを使えばよい。
ただし全て防災専用としてしまうと、コストや管理(食料品などの消費期限)が大きな負担になる。そのまま食べられる非常食やいわゆる防災グッズは3日分程度にし、残りは普段食べたり使ったりしているものを少し多めに購入し、なくなる前に補充する「日常備蓄(ローリングストック)」を取り入れよう。防災が長続きする。
大地震は「今日・ここで」生じてもおかしくない。それが日本列島である。自分と家族の命、そして地域を守るための対策を、今から始めてほしい。
(ソナエルワークス代表・高荷智也)
| カテゴリー 生活 | 2022年3月24日 11時33分 |