安静時心拍数上昇が高齢者認知症リスクに
高齢者において安静時心拍数の上昇は認知症の独立した危険因子であることが示された。スウェーデン・karolinska InstiutetのYume Imahori氏らは、同国の高齢者2,000人超を対象に安静時心拍数の上昇と認知症発症の関連について検討した結果をAlzheimers Dement( 2021年12月3日オンライン版 )で発表した。
心拍数で4群に分け、11年間追跡
安静時心拍数の上昇が心血管疾患(CVD)の予測因子であることを示すエビデンスは多い。中年と虚血性脳卒中患者において、安静時心拍数の上昇が認知機能低下および認知症と関連することを示した研究はあるものの、高齢者を対象に両者の関係を検討したものはほとんどない。そこでImahori氏らは今回、スウェーデンの高齢者を対象に安静時心拍数の上昇と認知症発症の関連について解析した。
対象は、同国のコホート研究Swedish National Aging and Care in Kungsholmen(SNAC-K)に登録された認知症がない60歳以上の成人で2001~04年から2013~16年まで追跡できた2,147例。安静時心拍数は心電図を用いて測定し、60回/分未満、60~69回/分(参照)、70~79回/分、80回/分以上の4群に分けた。認知症は『精神疾患の分類と診断の手引き第4版(DSM-IV)』に沿って診断、認知機能はMini-Mental State Examination(MMSE)を用いて評価した。
対象2,147例の平均年齢は70.6歳、女性が62%を占め、86例にCVD既往歴があった。
ベースライン時のMMSEスコアは平均29.0点。安静時心拍数は、60回/分未満の群が674例、60~69回/分群が776例、70~79回/分群が467例、80回/分以上群230例、平均65.7回/分。安静時心拍数が高い群は年齢が高く、教育程度が低く、現喫煙者が多く、身体活動性が低く、高血圧が多かった。CVD既往歴は4群で有意差はなかったが、安静時心拍数が高い群でβ阻害薬使用率が低かった。MMSEスコアは4群で違いはなかった。
1万9,344人・年(平均11.4年)の追跡期間中に289例が認知症と診断され、発症率は1,000人・年当たり14.9例だった。
80回/分以上群でリスク55%増
Cox比例ハザードモデルを用いて年齢、性、教育歴、喫煙、身体活動、BMI、血管危険因子、CVD、心拍数減少薬、アポリポ蛋白(apo)E ε4アレルなどを調整した結果、60~69回/分群に比べて80回/分以上群では認知症発症リスクが55%有意に上昇した〔調整ハザード比(aHR)1.55、95%CI 1.06~2.26〕。CVDの既往者と新規発症者を除いても、両者の有意な関係が認められた(同2.13、1.17~3.88)。
MMSEスコアの低下は全ての群で認められた。線形混合モデルで調整後、60~69回/分群に比べて80回/分以上群でMMSEスコア低下速度が速かった(調整β係数-0.13、95%CI-0.21~-0.04)。CVDの既往者と新規発症者を除外しても、両者の有意な関係が一貫して認められた(同-0.10、-0.19~-0.01)。70~79回/分群でもMMSEスコア低下速度が有意に速かった(同-0.10、-0.17~-0.04)。
Imahori氏らは「われわれの研究の結果、高齢者において安静時心拍数の上昇は認知症の独立した危険因子である可能性が示唆された」と結論。「観察研究であるため因果関係は明らかにできないが、潜在するCVD、危険因子、動脈硬化、交感神経と副交感神経活動の不均衡などが関係している可能性がある」と解説し、「安静時心拍数の測定により、認知症リスクが高い高齢者を同定できるかを検討する価値がある。そのような集団の認知機能を注意深く観察し、早期の介入により認知症の発症を遅らせることで、QOLに大きな影響を与える可能性がある」と述べている。(大江 円)