買ってみたら「模造品」、通報しても…フリマアプリの実情探ってみた
「フリーマーケットアプリ(フリマアプリ)を通じ、模造品のSDカードを購入させられた。指摘しても出品が続いている」。西日本新聞「あなたの特命取材班」に男性から情報が寄せられた。男性によると、同じように模造品のSDカードを販売しているケースがいくつかあるという。取材班が同様の商品を購入したところ、表示を大幅に下回る容量しかない模造品だと判明した。急成長するフリマアプリでは、模造品の疑いがある商品が散見される。実情を探った。
模造品が出品されていたのは、大手フリマアプリの「メルカリ」。取材班は5月中旬、男性の情報に基づき、あるアカウントにあった「新品未使用 PNY 1TB(テラバイト、1テラバイトは1000ギガバイト)SDカード」を2111円で購入した。一般的な価格に比べて格段に安い。同じようなメモリーが他にも数多く出品されていた。商品説明には「海外製品のため、購入する場合は自己責任で」とも書かれている。
後日、届いた商品をよく見てみると、なぜか本体の表記が「PNY 2TB」となっていた。早速、メーカーのPNY社(本社・米国)のアジア本部(台湾)に購入商品の写真、メモリー裏に記入されていた番号をメールで送ってみた。
同社からの返信は「残念ながら偽物と思われます。弊社では2TBのラインアップがございません。製品にプリントされているフォントも異なって見えますし、色など弊社製品よりも粗く印刷されている」との説明だった。
次に取材班は出品者に対し、西日本新聞記者であることを明らかにして「偽物ではないか」と指摘するメッセージを送った。
「2TBと書かれていますが、中身は1TBです。実際に使用できています。海外製品のため、使えない場合もあります。SDカードなので、どんな安心なメーカーでも不良品はあります。今回は、購入者様の確認不足だと思います」。出品者は模造品とは認めなかった。その上で「送り返してください。取引キャンセルで終わりにしましょう」と通知してきた。
このSDカード、1TBは確かなのか。容量を確認できるソフトで1日以上かけて検証してみたが、実際の容量はわずか約14・5ギガバイトだった。
取材班はメルカリにも模造品疑いを通告した。
運営事務局はメールで、まずアプリ内での取材が「禁止」であると告げてきた。取材に応じた広報は「(出品者への直接取材は)トラブルにつながる恐れがあるため、一律でご遠慮いただいております」と主張する。
質問を続けた。ならば、模造品販売の疑いのあるこのアカウントに対して、何らかの対応をするのか-。
「個別、具体的な案件の詳細については、回答を差し控えさせていただきます」。あくまで一般論として「本件に限らず、事務局が、合理的な理由に基づき禁止出品物に該当すると判断した場合は、取引キャンセル、商品削除、利用制限などの措置を取る場合がある」と説明した。
PNY社は「報告を頂いた場合、店舗へブランド侵害のクレームを行い、商品を掲示しないように要請する」との立場。模造品の見分け方として「市場価格と比べ、極端に安い場合は中古品でない限り、可能性が非常に高い」と注意を呼び掛ける。
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メルカリでの模造品対策とは、具体的にどのようなものなのか。
同社は、人工知能(AI)を使った検知システムや担当者の目視で「365日24時間」の常時監視を実施しているという。「正規品ではない疑いのある商品や、十分な情報のない商品については削除や(出品者への)警告を行っている。外部通報も受け付けている」と説明する。
しかし、今回の情報提供者は模造品のメモリーを購入後にメルカリ側へ通報したが、出品が続いたことから、取材班に連絡してきた経緯がある。6月13日現在、記者が購入したアカウントでも、大量のSDカードが出品され続けている。(竹次稔)
「模造品」、継続的に販売すると違法
早稲田大の上野達弘教授(知的財産法)の話
商標法では、商標権を侵害した未使用商品を他人に反復、継続的に販売すると違法になる。一方で、自分が使った中古品を販売する行為は継続性がなく、これに該当しないだろう。
アプリやインターネットサイト運営会社の法的責任については、単なる場の提供者にすぎないのか、取引に積極的に関与する役割を果たしているのかで程度が違ってくる。ケース・バイ・ケースだろう。現実にどのくらいの割合で違法物品がやりとりされているのか、といった事情も影響する。
法的責任とは別に、フリマアプリなどでは自主的な商標権侵害対策をしているとされるが、客観的な情報が乏しく実態評価をしづらい。ネット世界では、法的な規制が常に適切とは限らず、自主的なルール作りの役割は大きい。運営企業を含めた関係者の工夫が期待される。