国内最大級の結核病床(123床)を持つ阪奈病院(大阪府大東市)は17日、今年8月までの2年半の間に、結核などの入院患者19人が、抗菌薬(抗生物質)がほとんど効かない「多剤耐性アシネトバクター」に院内感染していたと発表した。18人は既に死亡しており、うち1人は感染と死亡との因果関係が否定できないという。同病院は外部医師の指摘があるまで約7か月間、保健所に報告しておらず、「深く反省している」と謝罪した。
7か月報告せず
阪奈病院によると、院内感染したのは58~97歳の男女19人。主に結核病棟の患者でいずれも個室などに隔離されていた。寝たきりの高齢者が多く、今も入院中の1人を除く18人は、2017年2月~今年8月に亡くなった。
阪奈病院の別の院内感染を調査していた外部の医師が今年8月、病院側が提出した資料から多剤耐性アシネトバクターの感染患者が過去に複数いることを指摘。カルテが残る過去5年間を遡って調査し、17年2月以降、結核病棟で感染が相次いでいたことが判明した。
外部の専門医に依頼して検証したところ、今年1月に死亡した71歳の男性患者は、発症により肺炎が悪化した可能性があった。
感染症法では、多剤耐性アシネトバクターの感染が原因で発症した場合、医師は7日以内に保健所へ届け出る義務があるが、病院側は当時、男性の発症を把握していたのに保健所に報告していなかった。
一方、検証の結果、入院中の1人を含む他の患者については、菌は保有していたものの発症しておらず、「病状経過には悪影響を及ぼさなかった」と結論付けられた。死因の多くは結核によるものだった。
17日午前、記者団の取材に応じた川瀬一郎病院長は「隔離していれば伝染は防げると過信していた」と説明。外部医師の指摘を受けるまで保健所に報告していなかった点は「発症した時点で報告義務があることを失念していた。認識が甘かった」と釈明した。病院は死亡した71歳の男性患者の遺族に謝罪したという。
毎年30人前後 全国で発症
アシネトバクターは土壌や河川などの自然環境に存在する細菌で、健康な人には無害だが抵抗力が弱い人だと肺炎や敗血症などを起こす恐れがある。抗生物質をむやみに使い続けると、薬に耐性を示すようになるとされ、00年代以降、海外から流入したとみられる多剤耐性菌が増えている。
多剤耐性アシネトバクターは、院内の手すりや医療機器などを介して接触感染すると考えられ、15年以降、全国の医療機関から毎年30人前後の発症例が報告されている。
過去には福岡大病院(福岡市)や帝京大病院(東京都)などで院内感染が報告されており、厚生労働省は昨年8月、鹿児島大病院(鹿児島市)で感染した入院患者8人が死亡した事例を受け、院内感染防止の徹底や速やかな報告を全国の医療機関に依頼していた。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20191017-OYTET50017/