どちらかの目が急に内側に寄り、左右の視線がずれる「急性 内斜視ないしゃし 」になる子どもが増えている。スマートフォンやゲーム機などの使いすぎが原因となっている可能性があるとして、学会が調査に乗り出した。(竹井陽平)
目との距離近く
関東地方に住む中学1年生のA君(13)は昨年8月、目が内側に寄ったままになった。栃木県那須塩原市の国際医療福祉大病院を受診すると、同大視機能療法学科教授の原直人さんから、急性内斜視と診断された。脳腫瘍など大きな病気が原因となっていることが懸念されたが、磁気共鳴画像(MRI)による検査で、異常は見つからなかった。
A君は昨年春から母親のスマホを使ってオンラインゲームにのめり込み、1日5、6時間も夜中に布団の中で遊んでいた。スマホの使いすぎが原因と考えられたため、原さんは生活習慣を見直すように指導。1日3時間程度まで減らしていくと斜視は少し改善した。
一般的にスマホを使うとき、目からの距離は約20センチと近くなる。近くの物を見る場合、両目は内側に寄り、ピントを合わせようと瞳孔は小さくなって、レンズにあたる水晶体は大きく膨らむ。画面が小さいため視線の動きは少なく、見続ける間は緊張が続く。「長時間使用を習慣的に繰り返すと、目がこうした状態に適応してしまう可能性がある」と原さんは指摘する。
「スマホ斜視」の子どもは増えているのか――。実態を把握しようと、日本小児眼科学会と日本弱視斜視学会は今年、調査を始めた。アンケートに答えた医師371人のうち、122人が昨年1年間にスマホなどの使いすぎが原因とみられる急性内斜視の子どもや若い患者がいたと答えた。今後は200人規模で患者を登録して詳しく調べる。
担当する浜松医大病院教授の佐藤美保さんは「どういう子どもにリスクが高いのかなどについて解明していきたい」と話す。
スマホ斜視を予防するには、30分間使ったら5分間休憩して遠くを見たり、スマホとの距離を意識して30センチ以上離して使ったりすることが大切だという。
3DやVRも注意
スマホだけでなく、立体的に感じられる3D(3次元)や、コンピューターが作り出した架空の世界を楽しむVR(仮想現実)の映像についても影響が懸念されている。錯覚を利用したこれらの技術は目を内側に向かせる力がさらに強く、子どもは斜視につながる恐れがあるからだ。子どもの脳は未発達なため、目と脳の成長に悪い影響を与える可能性もある。
このため、メーカー側は年齢制限を自主的に設けている。3D映像を楽しめる携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」を販売する任天堂は、「6歳以下は3D映像を表示しない設定にしてください」と取扱説明書に明記。VRを体験できるゴーグル型の端末「プレイステーションVR」を販売するソニー・インタラクティブエンタテインメントも「対象年齢は12歳以上」として同様に注意を呼びかける。
映像技術と子どもの目の関係に詳しい大阪大名誉教授の 不二門尚ふじかどたかし さんは「スマホなどのデジタル機器は、子どもの成長段階に応じた付き合い方が重要だ」と指摘している。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190806-OYTET50009/