声、かすれてますよ――。そんな指摘を周囲から度々受けるようになったら、耳鼻咽喉科を受診した方がいい。思いもしない重大病のサインの可能性があるのだ。

「声の変化で病気が見つかることは、“声”を専門にしている医療機関では、珍しいことではありません」

 こう言うのは、「フケ声がいやなら『声筋』を鍛えなさい」の著書がある国際医療福祉大学東京ボイスセンターセンター長の渡邊雄介医師だ。

 普段とは違うかすれ声、しわがれ声、弱々しい声などを「嗄声」と呼ぶ。加齢や声の出し過ぎ、歌い過ぎ、喫煙や飲酒などでも嗄声は起こる。また、風邪をひいたり、乾燥が続いていたりしても、声が変化する。

「しかしこれらは、一時的なものです。たとえば今の季節は乾燥しているため、日常的に声がかすれ気味になりやすいですが、お風呂など湿度の高いところにいれば、自然と声が普通にもどっていきます。怖いのは、継続する嗄声です」(渡邊医師=以下同)

 メーカーの営業職で都内在住のAさん(50代)は、ヘビースモーカーであり、仕事柄、夜遅くまでの深酒が習慣化していた。体調が悪くても、「酒か睡眠不足が原因だろう」と考えていた。

 ある頃から、声がかすれ始めた。そのうち、食事が喉につっかえるようになってきた。耳鼻咽喉科を受診すると、食道がんが見つかった。

「まさに食道がんは、嗄声が自覚症状のひとつ。それだけではありません。下咽頭がん及び喉頭がん、肺がん、甲状腺がん、進行した乳がんなどさまざまながんが声の変化と関係しています」

 下咽頭がん及び喉頭がんは、硬いがんが軟らかい声帯部分にできることで、声帯の働きが妨げられ、嗄声となる。一方、食道がん、肺がん、甲状腺がん、進行した乳がんなど声帯と無関係のように思えるがんによる嗄声は、声帯を動かしている神経、反回神経が障害されていることが原因だ。

「反回神経は脳から喉に向かって下行し、喉を素通りして大動脈弓や鎖骨下動脈へと向かい、反回して上行し、声帯へ到着します。この反回神経が接するところには、食道、肺、甲状腺、乳房があり、これらの部位にがんができると反回神経が障害されるのです」

■大動脈瘤の2割は声の変化で発見

 同様の理由で、反回神経に隣接する大動脈に瘤ができる大動脈瘤も、声の変化が表れる。瘤が破裂すると高率で死に至る大動脈瘤は、2割が声の変化で発見されるともいわれている。

「発症して早期で嗄声になるか、進行してからかは、病気の種類やがんの位置によって異なります。ただはっきりと言えるのは、声の変化を甘く見てはいけないということです」

 近年、日本では性感染症の梅毒が増加傾向にある。国立感染症研究所が11日に発表した内容によると、2018年の患者数速報値は6923人で、前年より約1100人増え、48年ぶりに6000人を超えた。

「梅毒へ感染すると大動脈瘤のリスクが高まる。そして大動脈瘤が大きくなると反回神経に影響して声がかすれる」

 声の出し過ぎも嗄声の原因になると前述した。ところが、声を出さないでいることによる嗄声もある。

「機械を使わなければサビるのと同じイメージです。声の酷使か、あるいは使わないことが問題かを正しく見極めて、後者であれば、声を専門とする言語聴覚士の指導のもと、正しい声の出し方を身に付けなくてはなりません」

 声の変化は、耳に聞こえるからこそチェックしやすい。聞き落とさないようにしよう。