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呉服店での立替払契約における名義貸し

本件は、呉服店から名義貸しの依頼を受けそれに応じて個別クレジット契約に名義を貸した消費者に対して、信販会社が立替金残金の支払いを求めた事例の上告審である。
 裁判所は、呉服店が消費者に名義貸しを依頼した際に告げた「絶対に迷惑をかけない」「クレジットを組めないで困っている高齢者を助けてほしい」などの勧誘文句が、割賦販売法にいう「購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」に当たり、不実告知があった場合には契約を取り消し得る旨の判断を示し、信義則違反を理由に名義貸しをした消費者らの契約取消しの主張を否定した原判決を破棄し、高裁に差し戻した。
 名義貸しの事案について、販売業者に利用されたと認められる場合には、契約の取消しができるとした点において重要な判決である。(最高裁平成29年2月21日判決〈破棄差戻し〉)
  • 民集第7巻2号99ページ
  • 裁判所ウェブサイト掲載

事案の概要

原告・被上告人:
X(信販会社)
被告・上告人:
Yら(消費者)
関係者:
A(呉服店〈Xの加盟店〉)
 信販会社であるXは、2003年4月に呉服店であるAとの間で個別信用購入あっせん加盟店契約を締結した。Aは、事業継続中、運転資金を得る目的で既存の顧客に対して名義貸しを依頼し、これに応じた顧客との間で締結した架空の売買契約に基づいて信販会社から代金相当額の支払いを受けるとともに、自ら割賦金相当額の支払いを負担しており、このような立替払契約の不正利用の件数は相当数あった。その後、Aは2011年11月に営業を停止し、2012年4月に破産手続開始決定を受けた。
 そこで、Xは名義人であるYらに対して本件立替払契約に基づく立替金残金の支払いを求めて本件訴訟を提起した。また、支払い済みの名義人らに対しては不当利得返還債務の不存在確認を求めた。
 第一審は2008年の改正割賦販売法(以下、改正法)施行後に締結された契約に関して、改正法35条の3の13第1項6号(改正内容の詳細は後述)による立替払契約の取消しの適用を認めて、Xの請求を認めなかった。
 控訴審は、Aが勧誘の際に行った説明について、「その内容は購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものに当たらず不実告知の対象とはならない」と判断したうえで、名義貸しをしたYらのクーリング・オフ、契約の取消しなどは信義誠実の原則に反し認められないとして、Xの請求を全面的に認容した。そこで、Yらが上告したのが本件である。
 Yらが立替払契約に名義を貸した経過の概要は以下のようなものであった。
 Aの担当者がYらの自宅を訪れて、「お年寄りが布団を購入したいんだが、75歳以上だとローンを組めないので困っている。代わりに名義を貸してほしい」「絶対に迷惑はかけない」「本来の購入者である高齢者から集金できない場合にはA自身が責任を持って支払う」ことなどを説明した。そこで、Yらは、Aの説明を信じて、実際に商品を購入する高齢者がいること、高齢者が契約を締結していること、契約に基づいて商品の引き渡しがされていること、真実の購入者が支払いをすること、もし高齢者からの支払いがなかった場合にはAが責任を持ってXに対する支払いをすること、したがってYらのリスクはまったくなく、Xにも迷惑はかけないと認識して名義を貸すことに応じた。その際作成された契約書は、訪問販売ではなく店舗での取引との内容であった。
 さらに、Aは、Xからの確認電話に対しては、本人であること、契約締結の意思があること、商品を受け取っていると回答するよう指示しており、Yらはその指示に従った。


理由

改正法35条の3の13第1項6号の解釈

 改正法35条の3の13第1項6号に規定する事項には、立替払契約又は売買契約に関する事項であって購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものであれば、契約内容や取引条件のみならず、契約締結の動機も含まれる。

名義貸しの場合について

 改正法35条の3の13第1項6号は、あっせん業者が加盟店である販売業者に立替払契約の勧誘や申込書面の取次等の媒介行為を行わせるなど、あっせん業者と販売業者との間に密接な関係があることに着目している。特に訪問販売においては、販売業者の不当な勧誘行為により購入者の契約締結に向けた意思表示に瑕疵(かし)が生じやすいことから、購入者保護を徹底させる趣旨で、訪問販売によって売買契約が締結された個別信用購入あっせんについては、消費者契約法4条及び5条の特則として、販売業者が立替払契約の締結について勧誘をするに際し、契約締結の動機に関するものも含め、立替払契約又は売買契約に関する事項であって購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて不実告知をした場合には、あっせん業者がこれを認識していたか否か、認識できたか否かを問わず、購入者は、あっせん業者との間の立替払契約の申込みの意思表示を取り消すことができることを新たに認めたものと解される。
 そして、立替払契約が購入者の承諾の下で名義貸しという不正な方法によって締結されたものであったとしても、それが販売業者の依頼に基づくものであり、その依頼の際、契約締結を必要とする事情、契約締結により購入者が実質的に負うこととなるリスクの有無、契約締結によりあっせん業者に実質的な損害が生ずる可能性の有無など、契約締結の動機に関する重要な事項について販売業者による不実告知があった場合には、これによって購入者に誤認が生じ、その結果、立替払契約が締結される可能性もあるといえる。このような経過で立替払契約が締結されたときは、購入者は販売業者に利用されたとも評価し得るのであり、購入者として保護に値しないということはできない。よって、改正法35条の3の13第1項6号に掲げる事項につき不実告知があったとして立替払契約の申込みの意思表示を取り消すことを認めても、同号の趣旨に反するものとはいえない。
 本件販売業者が改正後契約に係るXらに対してした上記上告の内容は、改正法35条の3の13第1項6号にいう「購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」に当たるというべきである。


解説

 2008年の割賦販売法改正により、「訪問販売において、加盟店である販売業者が契約の締結について勧誘をするに際し重要事項について事実と異なることを告げ、消費者が誤認して契約の申込み又は承諾の意思表示をした場合には売買契約だけでなく立替払契約も取消しできる」との制度が新設された。重要事項とは、「一 購入者又は役務の提供を受ける者の支払総額、二 個別信用購入あつせんに係る各回ごとの商品若しくは権利の代金又は役務の対価の全部又は一部の支払分の額並びにその支払の時期及び方法、三 商品の種類及びその性能若しくは品質…その他これらに類するものとして特定商取引に関する法律第六条第一項第一号又は第二十一条第一項第一号に規定する主務省令で定める事項のうち、購入者又は役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの、四 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期、五 クーリング・オフに関する事項、六 前各号に掲げるもののほか、当該個別信用購入あつせん関係受領契約又は当該個別信用購入あつせん関係販売契約若しくは当該個別信用購入あつせん関係役務提供契約に関する事項であつて、購入者又は役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」と定められている。
 本件は、消費者が販売業者から頼まれて立替払契約に名義を貸すいわゆる「名義貸し」に関する事例である。販売業者が消費者に名義貸しを依頼する際に説明した内容が事実と異なる内容であり、消費者が、説明内容が事実であると誤認して名義を貸した場合に、上記六に関する不実告知に当たるとして取消しできるかが争われ、初めて最高裁で判断がなされた。
 本判決は、立替払契約の締結について、信販会社は加盟店に媒介の委託をするなど密接な関係があるなどの理由から、改正法35条の3の13は消費者契約法4条及び5条の特則として定められたもので、上記第1項6号には契約締結決定についての動機も含むとした。訪問販売等の立替払契約の取消しが問題となる事案で参考になる重要な判断である。
 さらに名義貸しの事案に関して、契約締結を必要とする事情、契約締結により購入者が実質的に負うこととなるリスクの有無、契約締結によりあっせん業者に実質的な損害が生ずる可能性の有無などを考慮すべきことと指摘した点も重要である。これまで名義貸しについては、名義を貸与した消費者の行為のみを不正行為に加担したものと問題視して保護に値しないとする判例が少なくなかったが(本件原審判決〈参考判例[2]〉も同様の立場に立つ)、名義を貸与した経過によっては販売業者に利用されたと評価できる場合があり、そのような場合には契約の取消しができるとした。

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