日本網膜色素変性症協会から意見陳述した参考人は、いくつかの重要な要望を出しました。
第一の要望は、認定基準の変更により、従来の等級が低下してしまう場合についてです。
今回の検討で、視野は大幅な変更が見込まれます。従来のゴールドマン視野計が次第に臨床で使用されなくなってきていることに鑑(かんが)み、自動視野計による両眼開放下でのエスターマンテスト、中心視野についてはハンフリー視野計での10-2プログラムも採用する方向を打ち出しています。
このため検討会は、認定基準案の採用に際して、ゴールドマン視野計での従来の結果と、新基準で行った場合の等級変動がどの程度あるかを検討したデータも示しています。
ゴールドマン視野計は視標を動かしながら測定する動的定量的視野測定であるのに対し、自動視野計は視標は動かず、その光の強度だけが変化する静的定量的視野測定ですから、神経科学的には異なった視機能の属性を測定していることになります。それゆえ、どういう方策をもってしても、乖離(かいり)が生じるのは理の当然です。
視力は「良い方の視力」で判定する基準の導入が考えられています。
しかし、一眼0.03で他眼0.01の人も、一眼0.04で他眼が0の人も、従来はどちらも2級の判定ですが、新基準案では後者は3級に低下します。こうした問題が、いくつか指摘されており、新基準移行で、当事者に不利が生じない数値の設定が必須です。
とりわけ、2級と3級の間には、福祉サービスにおいても扱いが明らかに異なり、障害者雇用促進法では、2級なら雇用率のダブルカウント制度(一定以上の規模の企業には相当数の障害者雇用が義務であるが、2級以上なら1人の雇用で2人分に換算できる制度)の対象になる有利性を損なうことになり、影響は重大です。
新旧基準での乖離を完全には抑えられないとすれば、従来の等級が下がる判定が出た場合は、従来の判定を優先する特例を付加しておく必要があると思いましたが、検討会ではそこへの言及はありませんでした。
3番目は実効的視力、つまり生活で活用できる視力は10秒、数十秒かけてやっと出る視力ではないという主張でした。これは前々回(https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170411-OYTET50015/)に触れたとおりです。
最後に参考人は、網膜色素変性症に限っていえば、「夜盲」が初期から出る場合が多い。この時点から障害者と認定してもらえれば、訓練、介助の利用などで、障害者であってもその人の能力を最大限発揮できる機会が得られるだろうと述べました。
至極もっともな意見だと思いました。
障害の存在はその人の能力を語るものではありません。だれもが自身の能力を伸ばす権利があり、それはひいては日本社会の利得になるのです。
障害者手帳がないために、同行支援、図書館での録音図書の利用などの福祉サービスを断られたという事例が、私の患者さんの中にあります。
障害者手帳の有無、等級の上下にかかわらず、健常者と同じ社会で活躍できる器を作るという発想を、基準改定にかかわる専門家も、厚労省も持っている必要があると痛感しました。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170421-00050026-yomidr-sctch