2020年東京五輪・パラリンピックが目指す理念の一つが多様性と調和だ。あらゆる個性を受け入れ、互いを認め合うことで未来志向の社会に貢献する。健常者と障害者が一緒にプレーし、喜びや悔しさを分かち合う「ユニファイド(一つになる)」は、そんな新たな世界をスポーツから切り開こうとしている。
昨年12月17、18日に堺市のJ―GREEN堺で開かれた「第1回全国ユニファイドサッカー大会」。知的障害のある「アスリート」と、知的障害のない「パートナー」が混成チームを結成、韓国の1チームを含む全国から計18チームが参加した。16歳から60歳までの計221人の選手が、7人制と11人制の2種目で真剣勝負を繰り広げた。
大会は、知的障害のある人にスポーツの機会を提供している公益財団法人「スペシャルオリンピックス日本」が主催したもので、知的障害のある人とない人が混合で競技を行う「ユニファイドスポーツ」の一つ。日本では「ユニファイド」単独の全国大会は初めてだ。予選で競技力を見極め、決勝は同程度の力を持つチーム同士が対戦することもあって、熱戦の連続に会場は大いに盛り上がった。
走力のある障害者が左サイドを敵陣深く駆け上がり、健常者があうんの呼吸でパスを通す。ボールの奪い合いで障害者が健常者を深いタックルではじき飛ばす。オフサイドの位置にいる障害者にベンチから容赦ない大声や指示が飛ぶ。ゴールが決まれば、誰彼構わず抱き合って大喜びだ。
チームのユニホームは全員が同じものを着用。出場選手は7人制でアスリート4人、パートナー3人、11人制ではアスリート6人、パートナー5人にするというルールはあるものの、健常者が障害者に対して遠慮するプレーはなく、障害の有無を意識させられるような場面もない。トップアスリートの技術が見られるわけではないが、それでもチーム一丸となって勝利を目指し、結果に歓喜し悔しがる。純粋にスポーツを楽しむ気持ちに何ら違いがないことは、参加者の顔を見れば明らかだ。
武田薬品工業の特例子会社で、障害者雇用に力を入れるエルアイ武田(大阪市)の職場チームで参加したアスリート、中山季優さん(21)は「みんなで団結できて楽しかった」と充実の表情。ヘッドコーチとして指揮した森本孝幸さんは「いつもは健常者は支援をする側、障害者は支援をされる側になりがちだった」と振り返ったうえで、「一緒にチームを作って一つの目標に向かってスポーツをすることで、ともに感動を共有できることを改めて認識した」と実感を込める。
今年も第2回大会を計画しているスペシャルオリンピックス日本の有森裕子理事長は、「コミュニケーションを取りながら競技する姿を見れば、障害のある人もない人もみんな同じだと気づくと思う。スポーツを通して多くの人がつながり、もっと共生共存していく社会をつくれれば」と話している。
(金子英介)
[日本経済新聞2017年1月12日付朝刊]
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170113-00000006-nikkeisty-bus_all