2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の計画が、建築家の隈研吾(くま・けんご)氏や大成建設などによるA案に決まった。提示された2案の審査では、バリアフリーなどユニバーサルデザインも評価の対象になった。来年12月の着工に向け、障害者からは評価の声が上がる一方で注文も出ている。
「A案は車椅子席の視野確保の仕方などに配慮している」。頸椎(けいつい)損傷のため車椅子生活を送る建築デザイナー、丹羽太一さん(48)は、そう評価した。
東京は夏季初の2回目のパラリンピック開催都市となる。大会では多くの障害者を迎えることになる。
A案の車椅子席は利用者の目の高さを床から100センチと想定し、前列の一般席で身長175センチの人が立ち上がっても視界を妨げられないようにした。
国土交通省のバリアフリー建築のガイドラインは、車椅子利用者の目の高さを105センチとして、座席の高さなどを設定するのが望ましいとする。日本建築学会のデータなどを基に利用者が背筋を伸ばした状態を前提にしているが、それが難しい人もいる。一方、日本人男性の平均身長は約170センチで、靴を履けばさらに高くなる。
新国立競技場のスタンドを巡って障害者団体などは、車椅子利用者の目線をより低く、前列の健常者の身長をより高く見積もるように事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に求めてきた。
A案について丹羽さんは「会場全体が興奮する決定的な瞬間、前の人が立ったため障害者が見られなかったという事態を避けられるだろう」と指摘する。
ただ、施設のバリアフリー化に対するJSCの審査委員会の評価点(7委員で70点満点)は、A案(48点)よりB案(53点)が高かった。B案は、障害者の中には突然大声を出してしまう人がいることなどを考慮し、ガラスで囲ったボックス席を設けていた。
この点について、自身も脊髄(せきずい)損傷により車椅子を使って生活をしているDPI(障害者インターナショナル)日本会議事務局長の佐藤聡さん(48)は「従来にない取り組み」と評価する。
A案は五輪時に車椅子席の約7割が一番下の1層スタンドに集中するが、国際パラリンピック委員会(IPC)は水平方向だけでなく垂直方向にも均等に置くよう求めているという。そうすれば、さまざまな場所から試合を楽しめる上、観客席の料金は通常グラウンドから離れるほど安くなるため、障害者に多様な価格帯を提示できる。佐藤さんは「世界最高を目指すなら2、3層スタンドの車椅子席を見直すべきだ」と語った。
大成建設は今後、障害者らも交えたワークショップを開き、そこでの声を詳細な設計に反映させるという。丹羽さんは「障害者トイレの細かいレイアウトもこれから。節目節目で障害者の声を生かし、誰もが使いやすい施設にしてほしい」と望んだ。【飯山太郎】
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