「目にいつもいつも頑強な痛みがあって何もできない」「家の中でも眩まぶしさがあって外出はおろか、自分の移動もままならない」という方が眼科を訪れることは、決して珍しくありません。
原因となる目の異常がわかれば、眼科医としてはありがたく、必要な治療を施すことで改善すれば患者も医師も平和です。
ところが眼球をくまなく診察しても、そういう強い訴えに対応する所見が得られないことが結構あります。
そういう場合、医師は「どこも悪くありません。心配ないです」などと言うでしょう。ところが、患者さんとしては、それで症状が取れるわけではなく、納得がゆきません。
もしかすると医師は、眼精疲労とか、ドライアイとか、何か理由をつけて点眼薬を処方するかもしれません。効くと信じて使用すると心理的効果で症状が軽減する「偽薬効果」を期待している場合もあります。
こうした不明で頑固な症状の原因のひとつとして私が見つけたのは、薬物の副作用でした。
自覚症状の程度には軽重がありますが、こうした症状を持っている症例のかなりの人々が共通して使用している薬があったのです。それは、安定剤や睡眠導入薬として多用されているベンゾジアゼピン系あるいは同等の薬理作用を持つ薬の連用でした。
同等の薬理作用というのは脳内の神経伝達物質受容体のうち、「GABA」の受容体に作用する薬物で、ほとんどの睡眠導入薬が含まれます。
ただし、この種の薬物を長期連用している例には、薬への依存性があって容易には中止できません。無理に突然中止すると「離脱症候群」といって、予期できない身体のいろいろな症状が出現したり、今出ている症状が重症化したりすることがあります。ですので、慎重にゆっくり、場合によっては補助薬などを使用しながら何か月もかけて減量、そして中止にもってくる必要があります。
こうして減量中止が成功した例の中に、劇的に頑固な症状が改善し、喜び一杯の笑みで再来される患者さんを何十人もみて、やはり薬物の副作用だったのだと確信するに至ります。
ところが、これらの副作用は、眼科医にも、処方している科の医師にもほとんど知られていませんし、薬物の添付文書にも明確な記載はありません。
全例とはゆきませんが、減量中止で改善させられる可能性がある副作用だけに、これを「ベンゾジアゼピン眼症」として広めていかなければならないと、この副作用に気づきはじめた眼科医たちと相談しているところです。
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