認知症の高齢者らが行方不明になるケースが全国で相次ぐ中、認知症について学ぶ講習の講師資格を取得する警察官が相次いでいる。徘徊(はいかい)している人を保護したり、交番で対応したりする際の接し方は、警察官にとっていまや欠かせないスキル。超高齢社会に突入し、今後も認知症患者が増えるのは必至で、警察も認知症患者への対応力向上に動き出した。
■目線を合わせて
認知症とみられる高齢男性を取り囲む数人の警察官。「おじいちゃん、どこから来たん? 家、分からんの?」。大柄の警察官が見下ろすように問い詰めると、男性は「もう帰る!」と激高。警察官らは必死に引き留め、ようやく名前などを聞き出した-。
大阪府警生活安全総務課の川崎隆昌警部補(42)は、ある警察署で目撃した光景に頭を抱えた。
川崎警部補は、厚生労働省が認知症の患者を支援するために提唱した制度「認知症サポーター」を養成する講師「キャラバン・メイト」に今年7月、府警で初めて認定された。
「横に座って目線を合わせ、ゆっくり質問をするだけで落ち着いて話ができる。認知症を理解し、接し方を学ぶだけでスムーズな対応が可能になる」と、認知症患者の特徴を理解する大切さを強調した。
■増加する不明者
警察の日常業務で、認知症の患者と接する機会は年々増えている。
警察庁によると、全国で提出された認知症患者の行方不明者届は、統計を取り始めた平成24年の9607件から、26年には1万783件に増加。大阪府の場合は府警が集計を始めた16年は537件だったが、26年は1922件と10年間で3・6倍に増えた。
認知症とみられる高齢者が交番を訪れるケースも増えている。ある若手警察官は「『財布を盗まれた』などと言って、毎日のように来る人もいる。実際に盗まれたわけではないので、毎回なだめて帰ってもらう」と打ち明ける。
厚労省の推計では、認知症患者は10年後の37年には現在(525万人)の1・4倍の730万人になるとされ、警察官が認知症の患者と関わる機会はますます増えるとみられる。
■180人資格取得へ
「認知症患者への適切な接し方を学びたい」。現場の切実な声を受けて大阪府警は今年から、外部講師を招いて認知症に関する講習を始めた。だが、一般論に終始するケースもあり、受講者から「もっと実践的な話を聞きたい」との声が上がった。
そこで、認知症患者への対応経験が豊富な川崎警部補と太田靖人警部補(40)が講師資格を取得。今月10日、府警枚岡署で講師としてデビューした2人は、徘徊している認知症患者を見つけた場合の接し方などを実演し、署員からは「分かりやすい」と上々の評判だったという。今後、月に1~2署のペースで講習を実施する計画だ。
こうした動きは全国の警察でも始まっており、奈良県警では7月、3人の女性警察官が講師に認定された。
警視庁では今年度中に約180人の講師を誕生させる計画で、4万人を超える警察官・職員全員の受講も目指すという。
講師資格の認定を進めるNPO法人「全国キャラバン・メイト連絡協議会」の菅原弘子事務局長は「警察官の資格取得が進めば、行政などとの連携強化も期待できる。認知症への理解を深め、支える社会を目指す上で、大きな役割を果たしてくれると思う」と話す。
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