安保法案の影に隠れて、EUでは使用禁止となっているネオニコチノイド系農薬の食品残留基準が大幅に緩和されていたのをご存知ですか? 「ホンマでっか!? TV」でもおなじみの生物学者・池田清彦先生のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』にこの農薬の恐ろしさが詳述されているのですが…、子供の発達障害を引き起こす可能性も否定できないとのことで、深刻度は大です。
ペテン国家・日本の環境行政
近年、日本での昆虫の減少は甚だしい。梅棹忠夫が若かりし頃(1930年代の終わりだろうか)、よく虫採りに行った京都の貴船には、蝶が紙ふぶきのように飛んでいたという。今の日本にそんな場所はない。20年ほど前、ベトナムのタムダオ山に虫採りに行った。山頂で吹き上がってくる虫を待っていると、麓からナミエシロチョウの大群が吹き上がってきて、暫くの間、視界も定かならぬ蝶ふぶきの只中に立っていた事があった。タムダオの原生林も、日本の照葉樹の原生林も、見てくれはさほど変わらない。熱帯に近ければ近いほど、種多様性は高くなるという一般則はあるにしても、現在の日本各地の虫影は少なすぎる。梅棹忠夫の言を信ずれば、戦前には日本でも蝶が沢山飛んでいるところがあったはずだ。この100年足らずの間に何が起きたのだろう。
開発に伴う生息地の破壊、大気汚染など、様々な原因があったろうが、恐らく最大の原因は農薬の使いすぎである。私の大学の研究室の2年後輩の上田哲行(石川県立大学名誉教授)は、この20年間でアキアカネの個体数が1,000分の1に減ったという研究結果を報告している。すさまじい減り方だ。
その主たる原因はフィプロニルという成分を含むプリンスという製品名の農薬の使用にある。この農薬はイネの育苗箱の上から散布したり、床土に混ぜたりしてイネの苗に吸収させ、イネを食べた害虫を殺す作用を持つ。処理後長期にわたって効果が持続するので使用回数が少なくてすむことと、大気中に散布されないことからエコな農薬と謳われて広く使われているが、もちろんエコというのは真っ赤なウソで、長く効果が持続するということは、害虫にとっては猛毒ということだ。上田によればプリンスで処理した苗を植えた水田ではアキアカネのヤゴは生きていけないようだ。同じ育苗箱処理剤でも、パダンという農薬の場合はヤゴの生育に特段の害はないという。
フィプロニルと並ぶ問題の農薬は、ネオニコチノイド系の農薬だ。以前ミツバチが大量に巣から失踪する現象(蜂群崩壊症候群)が、同時多発的におきて原因が暫く不明であったが、少し前にネオニコチノイド系の農薬が蜂の神経系に作用してミツバチを殺すことが分かった。EUはこれを受けて2013年の暮れから、ネオニコチノイド系の農薬の使用禁止に踏み切った。
然るに日本では、今年の5月に厚労省がネオニコチノイド系の農薬の食品残留基準を大幅に緩和した。たとえば、クロチアニジンというネオニコチノイド系の農薬のホウレンソウの残留基準は13倍に引き上げられた。国民が戦争法案の行方をはらはらしながら見つめている間に、ドサクサにまぎれてひどいことを次々に決める安倍政権は本当に亡国政権だと思う。基準緩和の見直しに当たって、厚労省は2度にわたりパブリックコメントを求めており、2,000件のパブコメの大半は反対意見だったにもかかわらず、基準緩和を決めてしまった。 国民の意見や健康よりも農薬会社(クロチアニジンの製造元は住友化学)の儲けを優先したわけである。
大体、政府が行うパブリックコメントというのは、反対意見が絶対多数でも、政策を変更したためしはないわけで、国民の意見は聞いて参考にしました(実際には完璧に無視しました)と言っているだけで、これは完全なペテンである。パブリックコメントの実施に当たってさえ、結構な額の税金を使っているわけで、政策を見直さないつもりなら、何のためにパブリックコメントを実施するのかしら。省庁にとっては使う税金の額が省庁ならびにその配下の部署の権限の強さを測るマーカーなので、ムダでもなんでも名目をつけて税金を使いたいのだろうね。
先に述べたフィプロニルもネオニコチノイド系農薬も昆虫の神経系に作用して、昆虫を殺す。はたして、人間の神経系に対する影響はないのだろうか。脳神経科学者の黒田洋一郎は、ネオニコチノイド系農薬は、子どもの脳の発達障害(自閉症、ADHD:注意欠陥多動性障害、LD:学習障害)の原因になるとの説を唱えている。人体実験することはできないのではっきりした実験データはないが、可能性としては大いにありうる。予防原則の観点からもネオニコチノイド系やフィプロニルの使用は禁止したほうがいいと思う。国民の命や健康はどうあろうとも、戦争をしたくて仕方がない安倍政権に何を言ってもムダかもしれないけれどね。
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