耳の不自由な人に映画の魅力を伝えたい-。大和郡山市の要約筆記サークル「OHP金魚」が、同市が舞台の邦画『茜(あかね)色の約束 サンバDo金魚』の日本語字幕を作成した。人の会話だけでなく、自然の音や音楽の伝え方にも工夫を凝らした字幕は障害者だけでなく、耳が聞こえにくくなった高齢者などからの評判も上々。「映画を深く楽しむツールになる」とメンバーらは話している。
要約筆記サークルは、聴覚障害者に講演などの内容を要約筆記して伝える団体。透明なシートにペンで講演内容を書き、OHP(透過式投影機)でスクリーンに映し出す。県聴覚障害者支援センターによると、県内では現在、12の団体が活動している。
「OHP金魚」は平成13年に発足。ボランティアの主婦や難聴者などを中心に、現在17人が所属している。映画の字幕の作成は、『茜色の約束』が公開される平成24年に持ち上がった。
同市出身の塩崎祥平監督が手掛けた映画は、金魚の養殖が盛んな市を舞台に、日系ブラジル4世の少年が見つけた茜色に光る金魚をめぐるドラマを、少女との淡い恋を交えて描いた作品。「OHP金魚」代表の安藤法子さん(54)らは「地元の聴覚障害者にも楽しんでもらいたい」と、日本語字幕付きの映像作成を配給会社に依頼したがかなわなかったため、「それなら自分たちで作ろう」と監督に相談、快諾を得た。
昨夏から、パソコンのフリーソフトで字幕作成を開始。「映画の雰囲気がうまく伝わるよう、音の表記にこだわった」(安藤さん)といい、作中に流れる音楽を「♪」の記号だけでなく「神秘的な音」「勇ましいリズム」など、表現を工夫した。
上映時にはプロジェクターを2つ使い、スクリーンに映像と字幕を重ね合わせて映す。字幕は映画の音声に合わせ、パソコンのキーボードを手動で押しながら表示しており、一瞬も気の抜けない大変な作業だ。
先月24日、同市で開かれた上映会には50人を超える観客が詰めかけた。上映終了後、うっすらと涙を浮かべた障害者から「良かった。感動した」「本当に大変な作業だったと思う。すばらしかったです」などと感想が寄せられたという。
事務局長の阪本環(たまき)さん(52)は「年を重ねると健常者でも聞こえは衰える。字幕は健常者にとっても映画を深く楽しむための要素になる」と話す。「OHP金魚」では、今後も機会があれば字幕付きの同映画を上映する予定。安藤さんは「障害者も楽しめるよう、多くの邦画にも日本語の字幕が付けばうれしい」と話していた。
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