●SIMロック解除とは
5月から開始されるSIMロック解除義務化に向けて、NTTドコモとKDDIがその対応を発表した。両社ともに全く同じ内容で、180日間の継続利用ののち、SIMロック解除ができる、というもの。
このSIMロック解除義務化は、総務省のガイドラインによって定められ、昨年12月の改正で、従来の「事業者の自主的な取り組み」から義務へと強制となった。この結果、ユーザーにとってはどんなメリットがあるのだろうか。
○SIMロック解除義務化とは
携帯電話・スマートフォンは、SIMカードと呼ばれる小さなICカードに、携帯キャリアの情報などを書き込み、それを端末に挿入することで通話や通信が行われる。端末はこのSIMカードを認識して携帯ネットワークに接続しようとするが、指定したキャリア以外のSIMカードが挿入されると、端末がネットワークに接続できないようにするのがSIMロックだ。
SIMロックがかけられると、キャリアの契約を解約したあとに残った端末が他のキャリアでは使えなくなってしまう、海外旅行時に現地のSIMを使って現地の価格で通信を行うことができない、といったデメリットがある。
数万円の端末を購入しても、他のキャリアでは使えないということで、キャリアを継続する動機になるし、MNPで多額の補助金を出して端末の買い替えを促すというビジネスモデルの一因になっている、と総務省は指摘する。
今回のガイドライン改正によって、5月以降に販売される「原則としてすべての端末」でSIMロック解除が可能なようにしなければならなくなった。今回のドコモとKDDIの発表では、ガイドライン通り、一部を除いたすべての端末でロック解除が可能になる。一部というのは、キッズケータイや見守り端末、フォトフレームといったSIMロック解除が困難な端末か、特定の周波数や通信方式にしか対応していない端末に限られる。両事業者とも明言はしなかったが、今後発売されるであろうiPhoneもこのSIMロック解除の対象になるはずだ。
ガイドラインには、「最低限必要な期間はSIMロック解除に応じない」ことは認められており、ドコモとKDDIではこれを180日間と設定している。本来、「必要最小限の措置」のみが認められているのに対して、180日間という長期間がそれに当たるかどうかは議論の余地があるだろう。
特にドコモは現在、購入後に即日SIMロック解除が可能になっており、現状との整合性がとれていない。ガイドラインではこの最小限の措置について、端末の割賦代金の踏み倒しや、いわゆる転売問題などを防止することを例に挙げているが、ドコモがこれまでこうした問題に言及したことはない。今までSIMロック解除に対応していなかったiPhoneの影響も考えられるが、現時点では定かではない。
いずれにしても、5月以降発売の端末を購入して6カ月経過すると、Webサイト経由であれば無料でSIMロックを解除できる、ということになる。これまで、ドコモのスマートフォンを海外で利用するためにロック解除していた人にとっては、6カ月経たないと使えないわけで、不自由になったのは確かだ。
●SIMロック解除で予想されること
○SIMロック解除で何が変わるか
SIMロックを解除すると、何が変わるのか。特にキャリアを変更せず、サービスを継続して使うユーザーにとっては、即座に何かが変わることはない。今まで通り、特にSIMロック解除も必要ないだろう。
海外で現地SIMを使って利用したい場合や、MNPなどで別のキャリアに移転する場合、SIMロックを解除しておけば、今までの端末をそのまま使って、新たに契約した海外SIMや移転先のキャリアのSIMを挿してサービスが利用できる。
移転先のキャリアの端末を購入する必要がなくなるため、SIMの代金と通信サービスの料金だけで契約できる。現在、端末代金を割り引く代わりに通信料金から割賦代金の一部を値引きする月々サポートのような料金プランもあるが、端末を購入しない場合は、こうした割り引きはなくなる。逆に毎月支払う端末の割賦代金もなくなるので、トータルでは現在と変わらないか、少し安くなるぐらいの月額料金に落ち着きそうだ。
ただ、月々サポートやMNPユーザーに対して多額の端末代金を補填するキャッシュバックといった仕組みの利用者が減ると、キャリア側のコスト削減にもなり、その結果、通信料金などが安くなる可能性もなくはない。
とはいえ、このあたりはすぐに効果が出る問題でもないし、端末持ち込みでコストのかからないユーザーが増えなければ、結局は変わらない。義務化によって多くの人がSIMロックを解除して端末持ち込みでMNPする、という状況になるかといえば、それは考えにくいが、いずれにしても料金へのインパクトは今後の状況次第だろう。
●SIMロック解除の注意点
○SIMロック解除で注意すべきこと
キャリアの端末は、そのキャリアで使うことを前提とした設計になっており、例えば対応する通信方式、周波数帯の違いもある。分かりやすいのは3Gの通信方式で、ドコモ・ソフトバンクのW-CDMAとKDDIのCDMA2000に互換性はない。W-CDMAにしか対応していない端末をKDDIに持ち込んでも3Gサービスは利用できないし、CDMA2000にしか対応していない端末をドコモ・ソフトバンクに持ち込んでも3Gは利用できない、ということになる。
LTEは3社とも共通だが、使っている周波数帯が一部異なっており、これも非対応端末では通信ができなくなる。VoLTEやキャリアアグリゲーションといった通信サービスも利用できるかどうかも、端末やキャリアの対応次第だ。
各キャリアが提供する個別のサービスは、ドコモのようにマルチキャリア化を進めているサービスは、他社スマートフォンをドコモに持ち込んでも問題ないだろう。KDDIの場合は、持ち込み端末でサービスを利用しようとした場合、「非対応機種」などと出て、サービスが利用できない可能性もある。持ち込み端末が多くなって苦情が増えればKDDIも対応するだろうし、そうでなければ変わらないまま、ということになるだろう。端末をカスタマイズして提供されるサービスなどは、持ち込み端末だと利用できない、ということはありえる。
ユーザー側としても、SIMロックを解除して持ち込み契約をした場合に、そうしたデメリットがあることも認識した上で利用する必要がある。ガイドラインではキャリアに、こうしたデメリットを利用者が理解できるよう努めることを求めており、今後いくつかの問題は起きるかもしれないが、利用者側も一定の知識は要求される。
●SIMロック解除で思うこと
○SIMロック解除は誰にでも恩恵があるわけではない
SIMロック解除は、「そのキャリアの回線を使わない場合」に必要なものだ。逆に言えば、「ドコモの端末をドコモの回線で使う場合」にはSIMロック解除は必要ない。つまり、ドコモの回線を利用する大多数のMVNOでは、SIMロックを解除しなくてもドコモの端末はそのまま使える。同様にUQ MobileやmineoといったKDDI系のMVNOも、そのままauの端末が利用できる。
そのため、SIMロックを解除義務化は誰にでも恩恵のある制度ではないが、これをきっかけに、キャリアやメーカーのビジネスモデルにも影響があるかもしれない。ドコモとKDDIが180日間という期間を設定したのは、設計を厳しくして端末代不払いや転売といった行為を避けたいという理由があるようだ。特に、iPhoneの影響は見逃せないだろう。
まあ、SIMロックを解除しなくても一定の価格で売却は可能なのがiPhoneだし、180日間という期間を設ける必然性は薄いようにも思う。「一般的な役務提供期間を想定して180日間」(KDDI)という説明もあったが、この期間はあくまで「最低限の措置」であり、ガイドラインとの整合性には疑問もある。
SIMロック解除義務化に対して、キャリア2社の対応は過剰という印象がある。端末代金を一括で支払った場合は解除できる、海外渡航者には別途対応するといった柔軟な対応も必要だろう。ドコモでは、「社内でもいろいろ検討したうえでの結論。顧客の声によってはどうするか考えることも必要」と話しており、今後改善が図られる可能性もある。
SIMロック解除義務化で、端末販売でさらに囲い込みを強化する可能性もあり、キャリアの動向を注視していく必要があるだろう。
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