■医療費控除をうまくやるなら、年内に病院へ
年が明けると、確定申告の言葉がそこかしこで聞かれるようになる。会社員が確定申告する際にとりわけ必要なのは、医療費控除だろう(最近はふるさと納税の寄付控除も仲間入り? )。
医療費控除のための領収書の整理は、医療を受けた翌年にとりかかる人が多いが、実はカギは今年、つまりこの師走(12月)にある。
医療費控除とは、1月1日から12月31日までにかかった医療費で実際に負担した金額が、原則10万円を超える場合に、確定申告をすることで税金が安くなる制度だ。
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【医療費控除の計算式】
実際に支払った医療費の合計額 – 保険金などで受け取った金額 – 10万円*
*その年の総所得金額などが200万円未満の場合は総所得金額などの5%の金額になる
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つまり、1年間の医療費の合計額がモトとなるので、翌年に整理をして「あ~! あとちょっとで10万円を超えたのに~」と後悔しても後の祭りだ。どうしようもない。
それが今年のうちに整理をしていたとすると、「ちょっと前から気になっていた歯の治療、正月休みじゃなくて今年のうちに病院に行っておこう」とか、「もうすぐ常備薬がなくなるから、少し早めに買い足しておこう」というように調整ができる。
必要のない医療費をかけることは無意味だが、確実に必要なものであったり、タイミングを前倒しできたりするものなら、今年のうちに医療費の整理をするほうが家計にとっておトクだろう。
医療費控除の対象となる医療費は病院で支払ったお金だけと思いがちであるが、その対象範囲は広い。
ご相談者の誤解が多い項目には、「対象となる」レーシックや、「対象とならない」予防接種がある。医療費控除の対象は、あくまでも「医療」であり、「美容や予防は対象にはならない」と考えてもらうとわかりやすいだろう。
さて、ここからが本題だ。
■「いくら税金が戻るか」すぐ知る方法
会社員は確定申告を敬遠しがちだ。わたし自身、ファイナンシャルプランナーになる前は会社員だったので、確定申告は難しいもの、そして、面倒くさいものと思っていたからその気持ちはよくわかる。やったことがないことに対しては不安もあるし、実際に「確定申告をしていくらトクになるのかがわからない」という状況では、確定申告へのエネルギーも湧きにくいだろう。
ただ、「医療費控除をしたらいくらの税金が戻ってくるのか? 」という目安額は、源泉徴収票と所得税の速算表があれば簡単に知ることができる。
源泉徴収票に書いてある項目を説明しよう。
(1)は、「支払金額」は会社が支払った金額。
(2)の「給与所得控除後の金額」は給与所得(収入から会社員の必要経費を差し引いたもの。これは収入によって自動的に決まる)。
(3)の「所得控除の額の合計額」は、納めた社会保険料や扶養家族、保険の加入状況などの個人の事情分を税金をかけるモトから差し引く額の合計額。
(4)の「源泉徴収税額」は1年分の所得税。
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写真・図版:プレジデントオンライン |
■ほとんどの家庭は医療費10万円以上
医療費控除の効果の確認で使うのは、源泉徴収票の「(2)-(3)」だ。(2)から(3)を引いた金額(課税所得)が「所得税の速算表」の税率のどこに当てはまるかを見れば、概算額がすぐにわかる。
たとえば、医療費から10万円を差し引いた金額が1万円(医療費控除額)だったとしよう。すると、所得税率が5%の人(課税所得195万円以下)なら1万円の5%、つまり500円が所得税の確定申告で還付される。加えて、住民税は課税所得に関係なく一律10%だから、1万円の10%である1000円が翌年の住民税から減額されるので、確定申告によりおトクになる税金は年間で合計1500円となる。
同様の例で、所得税の税率が20%の人なら、所得税で2000円の還付、住民税で1000円の減額があり、両方で3000円分のおトクになる(ここでは所得税の速算表の税率の後にある控除額は気にしなくて良い)。
また、不妊治療やがん・先進医療は高額になることが多い。こういうケースはかかる医療費が高い分、税金の還付額も高くなる。例えば、不妊治療などで100万円を使った人なら、100万円から10万円を差し引いた90万円が医療費控除額になり、所得税の税率が20%の人なら、所得税で18万円、住民税で9万円、合計27万円もの税金が安くなる。
つまり、医療費負担が高ければ高いほど、そして税率が高ければ高いほど、医療費控除で家計が助かる度合いも高まるのだ。(もちろん、医療費がかからないのが一番であるのは言うまでもないが……)
厚生労働省の資料(平成22年度)によれば、一人当たりの年齢別の年間医療費を見ると、30歳未満は9万円未満だが、30~34歳10.3万円、35~39歳11.3万円、40~44歳13.0万円、45~49歳16.2万円、50~54歳20.5万円、55~59歳26.0万円、60~64歳34.6万円とどんどん増えていく(70歳以上は60万円以上)。
3~4人の家族単位で考えると、自己負担3割でも10万円程度にはなるだろう。医療費控除に該当しているのにもかかわらず確定申告をしないのは本当にもったいないのだ。
■医療費控除のおかげで保育料6万円減
確定申告をすることで、「○○円トクする」ということがわかれば、確定申告にかける時間と労力の費用対効果を考えて、「それだけ税金がおトクなら頑張ろう! 」と思ったり「それだけしかトクにならないのなら、その分は他で節約したり、稼いだ方がいい」と、自分で行動を選択できるようになるのではないだろうか。
そうそう、先日、成人式を迎える娘さんを持つ50代の女性のご相談者さんが、「昔、若い時に医療費の確定申告をしたけれど、500円も返ってこなくて馬鹿らしくなってそれ以来するのをやめた」とおっしゃっていたが、実はこの人はすごく損をしていたかもしれない人だ。
多くの自治体では、保育料を決めるとき所得税をもとにする。その際の所得税は、医療費控除を申告していれば、医療費控除を差し引いた所得税額で計算してくれるところが多いのだ(ちなみに、保育料を決める時の所得税では、住宅ローン控除はなかったものとして計算されるので、住宅ローン控除で所得税がゼロ円になっている人でも医療費控除は油断せずに行っていただきたい)。
たった500円の所得税の還付といえども、保育料の算定基準が1ランクさがり、月約5000円変われば、それで、所得税500円、住民税1000円、保育料60,000円、合計61,500円の差が出る(保育料は自治体によって変わるので各自治体HPで要確認。(*大阪市ではD9ランクがD8ランクになると、月5700円違う。http://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000185266.html)
このように、医療費控除は所得税だけでなく、住民税の減額や保育料まで影響を及ぼすものだ。
ちなみに、前述の人物が失敗していたのは10数年前……。還付申告を忘れていた場合は、原則5年前までさかのぼれる。 あれっ? と思った人は、年末に整理をして、来年しっかり申告してみよう。
ファイナンシャル・プランナー 前野彩=文
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141203-00014046-president-bus_all