夏休みに社員の子どもたちが会社を訪れる「子ども参観」をする企業が増えている。仕事と家庭の両立を支援する試みで、家族や同僚の理解が進む上、「社員自身のやりがいや、士気向上にもつながる」と好評だ。
「お父さんやお母さんを見る目、変わっちゃうよ」
多くの風船や折り紙で彩られた製薬会社「協和発酵キリン」(東京都千代田区)の「子ども参観日」。社員とその子ども七十七人に、花井陳雄(のぶお)社長が語りかけた。
子どもらは名刺交換やおじぎの練習の後、社長室や親の職場を訪問し、仕事の模擬体験へ。白衣姿でラムネや粉砂糖を薬に見立てた調剤体験をしたほか、同社が開発する薬のオリジナルパッケージ作りや社内報を制作した。
新薬などを開発する研究開発本部の佐藤崇(たかし)さん(43)は、次女の栞(しおり)さん(10)と、長男の周(あまね)君(8つ)を連れて参 加。「海外赴任中、現地では職場に家族が来る文化が根付いていた。今回はとてもいい機会」と佐藤さん。調剤を体験した栞さんは「粉を包むのが難しい。科学 者になって、お父さんみたいに新薬を作るのが夢」と語る。
長男の正成君(9つ)と参加した営業企画部の野口雅弘さん(41)は「家では仕事の話をなかなかできないので、ありがたい」と喜ぶ。
同社の子ども参観は、次世代育成支援対策推進法に基づく「一般事業主行動計画」の一環で、昨年から実施。アンケートには「社員間や家族との相互理解が深まった」「子が来ると職場の雰囲気も和む」と、好意的な声が寄せられた。
コンピューターソフト会社「日本ユニシス」(東京都江東区)の子ども参観は今年が六回目で、親子七十三人が参加。画面に触れずに文字を描く、同社の技術を体験した後、手作りの名刺で役員や親の同僚にあいさつした。
総合マーケティング部の黒瀬峰子さん(47)の長女、晃穂(あきほ)さん(6つ)は、母親の同僚にあいさつ。同僚らはお土産を用意して、手品を披露するなどして歓待した。晃穂さんは「みんな優しい。また来たい」とほほ笑んだ。
参観を企画する同社CSR推進グループの中垣由佳さんは「社員が家族とともに大切にされることで、士気が上がった」と話す。「部下の家族にも責任があるんだと自覚し、身が引き締まる」という上司の声が寄せられ、職場と家庭の相互理解も進んでいる。
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職場参観など企業のイベントを手掛ける「JTBモチベーションズ」(東京都港区)の難波真(なんばまこと)シニアプロデューサーは「東日本大震災 以降、家族向けイベントに関する企業からの相談が多く寄せられている」と話す。イベントの参加経験者を対象にした同社の調査(二〇一二年、複数回答)では 「職場のコミュニケーションが増えた」(49・4%)、「他部門と仕事がしやすくなった」(43・4%)などの効果が示された。
調査を担った同社ワーク・モチベーション研究所の菊入(きくいり)みゆき所長は「社員の誇りを醸成して組織が活性化する。コミュニケーションの向上が業績にもつながる。子のキャリア教育にも役立ち、見合った効果が得られている」と話す。
課題は会社の事業をどう子どもに伝えるかだ。協和発酵キリンの金田宗一郎・多様性推進グループ長は「社業が人々の生活と直接的に結び付かないと、何をやっているのか伝えにくい」と悩む。
菊入さんは「会社の業務がどのような形でどう届くのか、最終形を見せるなど分かりやすさが大事。家族への感謝が目的なら、交流イベントに徹するのも手」と助言する。
(安食美智子)
http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2014082902000002.html