西アフリカでのエボラ出血熱の拡大が懸念されるなか、日本ではデング熱の国内感染が約70年ぶりに確認された。
デング熱の感染場所と疑われている東京・代々木公園では、ウイルスを運びかねない蚊が駆除された。
警戒が必要な状態だが、正しく対処していけば、むやみにおびえることはない。
デング熱は人から人に直接感染することはない。38度を超す発熱や関節痛などの症状が出ても、早く適切に治療すれば命にかかわることはまれだ。
エボラ出血熱はまだ、感染はアフリカに限られている。
とはいえ、これまでは熱帯・亜熱帯の病気と思われていた感染症が、温帯の先進国に入り込むリスクは日々高まっている。
デング熱はその典型である。
世界保健機関(WHO)によると、1970年以前に重症型のデング熱が流行したのは9カ国だけだったが、今は中南米、東南アジア、西太平洋を中心に100カ国以上で流行している。感染者は激増し、年に5千万~1億人とも推計される。
意外なことに、デング熱は都市部の病気だ。ウイルスを媒介する蚊の行動範囲は半径50メートル程度と狭い。ウイルスをもつ人の血を吸った後、別の人を刺して初めて感染が広がる。
途上国で都市への人口集中が進んだことで、爆発的に感染が広がる素地ができたのである。
主に媒介する蚊は越冬できないが、地球温暖化と暖房の整備で生息域を広げ、人や商品とともに温帯へやってきている。
感染者が多い国々の、特に都市部で蚊を駆除することが最も有効な対策になる。
一方、エボラ出血熱は、ジャングルの開発と都市化が進んだため、ウイルスと人の接触する機会が増え、流行の規模が大きくなったと考えられている。
WHOは懸命に感染封じ込めを図っているが、現在3千人とされる感染者数が最悪の場合2万人を超す恐れもある。
現地に赴いた日本人医師によると、医療従事者を指導できる治療チームの派遣とともに、防護具や遺体を入れる袋など消耗品の補充が必要だという。
新型インフルエンザを含め、こうした感染症は日本で守りを固めるだけでは根本解決にはなりえない。対岸の火事のように考えず、感染拡大を監視し、できるだけ小規模なうちに適切な方法で火消しする国際的な態勢強化が欠かせない。
日本はWHO分担金で米国に次ぐ第2位だ。感染症対策により積極的に関与していきたい。
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