「子育て」の話題になると、きまって持ち出されるのが「生物学的根拠」だろう。つまり、女性(メス)は生物学的に子育てをするようにできている、だ から、子育ては女性が担うのが正しい、男性(オス)は子育てに向かないという理屈だ。この理屈は、離婚時の親権争い、ゲイカップルの養子について論じると きにも持ち出される。だが、私たちの脳はもっとフレキシブルにできているようだ。
脳の活性度とホルモンの分泌を観察
オレゴン州立大学の神経科学者、Sarina R. Saturn博士が、異なる状況で第一子を育てている男女に自分が子どもの世話をしている様子を撮った映像を見てもらい、脳の活性度、および母性行動を促すホルモンと言われるオキシトシンの濃度を観察した。
被験者となったのは、育児に関して①中心的役割を担っている女性(母親)、②補助的役割を果たしている男性(父親)、③女性がいない環境で子育てをしている男性(シングル、同性愛のカップルなど)。
感情面(母親的)と思考面(父親的)の反応は?
脳の活性度に関しては、「感情面のネットワーク」(子どもとの絆作り、警戒、子どもの苦痛に対する反応、子どもの健康を維持する行動に対する化学的 報酬の提供等を司るネットワーク)と「思考プロセス」(子どもの心理状態、感情をモニターし、将来必要なものを考え、計画を立てるプロセス)の活性度を fMRIで確認した。
男性だけで育児をしている場合、母親的特徴も顕著に
その結果、「感情面のネットワーク」は①の女性の活性度が最も高かったが、③の男性は②の男性より活性度が高く、①とほぼ変わらないレベルであることが分かった。「思考プロセス」に関しては、男性のほう(②と③)が活性度が高まることが分かった。
つまり、③の男性に関して言えば、父親としての役割と母親としての役割の両方を果たしていることになる。
血のつながりは関係ない?
オキシトシンの濃度を見てみると、3つのグループにほとんど差は認められず、とくに③の男性の場合、実子であれ養子であれ、ホルモン濃度に差がないことが分かった。
男女差より、子どもへの関わり方が重要
確かに、授乳ができるのは女性だけであり、出産直後や授乳時に女性のオキシトシン濃度が一気に高まるという事実はある。しかし、私たちの脳には「時代の流れに対応するだけの柔軟性がある」と、Saturn博士は述べている。
Saturn博士の研究結果は『Proceedings of the National Academy of Sciences』に発表された。
http://irorio.jp/kondotatsuya/20140802/152440/