知らぬ間にあざができたり、鼻血が止まらなかったり…。血液中の血小板が減少する希少疾患「特発性血小板減少性紫斑病(ITP)」は働き盛りの女性に多い良性難病だ。患者も情報も少なく、理解が得られにくい。ITP専門家の一人、埼玉医科大学病院総合診療内科の宮川義隆教授に話を聞いた。(日野稚子)
◆新薬で重篤化回避
ITPはアトピー性皮膚炎などと同じ自己免疫疾患だ。赤血球や白血球の数に関係なく、血小板だけが減少。血小板を攻撃する抗体ができて脾臓(ひぞう)での血小板破壊が活発化、血小板産生能力そのものも低下する。昭和49年、公費助成対象の特定疾患に指定された。
国内患者数は2万~3万人で推移し、新規発症者は毎年2600人程度。「急性型」は子供に多く、8割が自然に治る。一方、成人の9割は「慢性型」に移行する。発症年齢は女性は20、30代と60代、男性は60代以上が多く、女性が男性の約2倍。「妊娠がきっかけで発症し、妊婦健診で発覚することもある」と宮川教授は話す。
通常、血小板は血液1マイクロリットル(マイクロは100万分の1)中、15万~40万個あるが、ITP患者では10万個以下。血液凝固に関わる血小板が失われるため、ITPは出血症状も表れる。血小板数が5万個以下で皮下出血によるあざ(紫斑)や鼻血、3万個以下だと点状出血が、1万個以下で粘膜や体内深部で出血が起きる。患者の約1%は脳内出血や肺出血、消化管出血を起こし、「止血方法がなくて手術もできず、亡くなる人もいる」(宮川教授)ため、重篤な出血を予防するための治療が行われる。
治療薬は副腎皮質ステロイドが第一選択で、約8割の患者で血小板増加効果がある。しかし、ステロイドを中止できる患者は1~2割程度で、不眠や免疫低下、糖尿病などの副作用を新たに持つことになる。脾臓摘出術も選択肢で7割が完治する。
近年、血小板を作る細胞(巨核球)を刺激し、血小板産生能力を高める「トロンボポエチン受容体作動薬」が新薬として登場。約9割の患者で効果が見られ、ステロイドの副作用からも脱出できる。しかし、妊婦には使えず、薬価が高いなどの難点もある。
出血症状がなければ日常生活に制限はないが、「外傷予防にと、旅行をやめたり、幼稚園の登園禁止や小学校で外遊びが禁止になる小児患者、女性では月経過多で休みがちになり、職場に居づらくなったりする人もいる」(宮川教授)。
◆指針改定へ
妊娠・出産適齢期の患者が多く、妊娠出産時の治療ガイドラインもある。出血傾向のある血小板数5万以下の患者は避妊、もしくは人工流産を考慮するとし、出産時は帝王切開分娩(ぶんべん)を推奨してきた。
今回、厚生労働科学研究の一環で、20年ぶりのガイドライン改定に向けた作業が進んでいる。ITP専門家のほか、産科、小児、麻酔の専門医も加わり、関係4学会から意見も求めた。国内事例や他国ガイドラインも参照し、必要な血小板数を妊娠で2万~3万、自然分娩で5万、帝王切開分娩で8万以上とする方針だ。
宮川教授は「治療ガイドライン自体も2年前に改定された。症状は患者ごとに異なり、一様ではない。ITPだからと妊娠出産を諦める必要はない」と話している。
■患者会発足、ネットにも意見交換の場
ITPの情報提供や患者同士の交流を図ろうと昨年9月、ITP患者会「なんくるないさー」(http://itp-n.jimdo.com/)が設立された。第1回の交流会が27日午後1時、東京都難病相談・支援センター(東京都渋谷区)で開かれる。患者会の大江和子代表は「症状に日々、振り回されている患者も多い。支え合うきっかけになれば」と話す。
インターネット交流サイト「フェイスブック」で患者と治療に携わる医師・医療従事者限定の「ITP患者のひろば」も登場。参加する愛知県在住の女性は「担当医はITPに詳しいわけではない。自分自身が病気のことを正しく理解することが大切だと分かった」と話している。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140423-00000505-san-hlth