“ワクチン後進国だ”といわれる日本の今のワクチン事情について、また、受けるべきワクチン、知っておくべきワクチン情報について、現役医師を中心に、Q&A方式で解説していく連載。2013年は風疹が大流行し、社会的にも「先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome: CRS)」が大きな問題となっています。この大流行には成人のワクチン未接種問題が大きく影響しているわけですが、2008年、2010年に大流行し、毎年感染者が報告される「百日咳」も、やはりワクチンの接種状況が大きくかかわっています。今回は百日咳とワクチンについて、ナビタスクリニック立川院長 久住英二先生に解説してもらいます。
「妊娠したら打たなければならないワクチンがある」という話は聞いたことがありますか? こういうと、まるで妊婦さえワクチンを接種していればいいと思うかもしれません。実際はそうではなく、例えば2009年の新型インフルエンザ騒動のとき、妊婦はワクチンの優先接種対象者だったと記憶している人もいるかもしれませんが、妊婦・胎児を守るために、「妊娠したら打つべきワクチン」があるということなのです。
ただし、妊婦はなんでもかんでもワクチンを接種していいわけではありません。妊娠したら接種すべきワクチンと、妊娠中には接種できないワクチンがあります。
そこで今回は、妊婦が優先的に受けるべきワクチンの1つでもある、百日咳ワクチンについて解説します。
Q1 3種混合ワクチン、“子どものときに打った”は通用しない?
通常、3種(破傷風・ジフテリア・百日咳)混合ワクチンは、乳幼児期に接種を受け、12歳時に2種(破傷風・ジフテリア)混合ワクチン接種を受けています。免疫は10年程度で減弱するため、12歳ごろには百日咳に対する免疫は低下し、22歳ごろには破傷風とジフテリアに対する免疫も低下します。
Q2 なぜ百日咳が問題なの?
抗体価の減弱にともない、百日咳が青年期以上の成人で増えています。これは日本に限らず、米国でも同様の傾向が報告されています。
次に、2008年の感染症流行予測調査における、百日咳抗体価を示します。
感染防御に必要な抗体価は青ラインで示されています。百日咳菌は、百日咳毒素(PT)、繊維状赤血球凝集素(FHA)の他に、パータクチン、気管上皮細胞毒素などの毒素を有します。ワクチンには、抗原として主にPTとFHAが含まれます。グラフでは、青ラインは右肩下がりになっており、抗PT抗体価、抗FHA抗体価とも、年齢とともに低下していくことがわかります。
年齢とともに百日咳菌に対する免疫が弱まり、成人での百日咳患者が増えると、それが生後間もない、まだ3種混合ワクチンを接種する前の乳児に感染するケースが増えます。乳児が百日咳にかかると、重症化しやすいのです。
Q3 結局、百日咳って何が危険なの?
百日咳は、百日咳菌が原因の細菌感染症で、患者の唾液のしぶきが飛んで、飛沫感染します。感染して9~10日目の潜伏期間ののちに、ふつうの風邪と同じような症状で発症します。咳は次第に重くなり、1~2週間のうちに、発作的に「コンコンコン、ヒューッ」という咳の出る、百日咳に特徴的な症状を呈します。咳の頻度は次第に悪化し、2週程度の経過で、次第に軽快しはじめます。
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咳で夜も眠れないほか、咳でいきむので、結膜(目の白目の部分)で出血したり、顔がむくむ、咳き込んだときに嘔吐する、肋骨を痛める、などの不快な症状も合併します。
特に危険なのは6カ月未満の乳児です。約4人に1人の高頻度に、深刻な合併症がおきます。呼吸器では百日咳菌による肺炎や肺胞出血。中枢神経では、咳にともなって脳内出血が起きることがありますし、咳が続いて息ができず、低酸素状態となります。症状としては、けいれんや意識障害となって表れます。咳き込みが続けば哺乳、食事ができなくなり、脱水や栄養不足となります。
成人では、典型的な百日咳の咳を呈することは少なく、咳が強く、長引く風邪として治療を受けることが多いです。そのため、知らないうちに菌を撒き散らし、感染源となることが問題視されています。
Q4 妊娠中にワクチンをうつメリットとデメリットは?
百日咳に限らずワクチンは、妊娠の可能性がない成人は、普通に接種すればよいのですが、妊娠中の場合、ワクチンの種類によって、接種の可否があります。
まず不活化ワクチンなら、妊娠中も接種することができます。妊娠中に接種をうけ、母体が免疫を得ると、それが胎盤を通じて胎児に移行します。つまり、妊婦さんがワクチン接種をうけると、赤ちゃんにワクチンを打つのと同じ意味があるのです。
もっとも一般的なのは、インフルエンザワクチンでしょう。妊娠後期にインフルエンザを罹患すると重症化するため、ワクチン接種が推奨されています。なおその効果については、妊婦さんを2群に分けて、Control群には肺炎球菌ワクチンを接種して、インフルエンザワクチン接種をした群と、生まれてきた赤ちゃんでのインフルエンザの発症率を比較したデータがあります。インフルエンザワクチン接種をうけた母から生まれた赤ちゃんでは、インフルエンザの発症が63%も少なくなりました。
母体が百日咳ワクチンを接種すると、新生児の臍帯血(=胎児の血液)からは百日咳に対する抗体が検出され、免疫が移行することが確認されており、妊婦が百日咳ワクチンを接種することで、生まれたての赤ちゃんを百日咳から守ることができると考えられます。
ワクチンを打つデメリットは、重篤な副反応が、10万~100万分の1という、極めて希に起こりうる、ということです。メリットとデメリットを比較すれば、百日咳を母児ともに予防できるメリットの方が大きいです。
(文/ナビタスクリニック立川 院長 久住英二)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130911-01052025-trendy-sci&p=1