肩の腱板に穴が開き痛みを引き起こす肩腱板断裂。薬物療法と運動療法が治療の基本だ。穴が広がるのを防ぐためのゴムバンド体操やストレッチを実演でわかりやすく紹介。
1.肩腱板断裂
肩腱板[けんばん]断裂は、肩の腱板にあなが開き、痛みが生じる病気です。肩関節の上部にあり腕を上に上げるときに働く腱板(棘上[きょくじょう]筋腱)が、最も断裂しやすい部位です。肩を強打したときなどには腱板が完全に切れることもありますが、ほとんどの場合、靴下がすり切れるように腱板がすり切れ、あなが開いたような状態になります。肩腱板断裂が起こりやすいのは、重い荷物を持つ仕事などで肩を酷使している場合や、転倒などによる外傷がある場合です。利き腕の肩にやや多く発症し、60歳代から増え始めます。
2.診断と治療
医療機関ではまず視診や触診が行われ、肩の筋肉の状態や動きの制限の有無などが確認されます。五十肩の場合、補助しても腕を上げることができなくなりますが、肩腱板断裂の場合は、補助すれば腕を上げられることが多くあります。確定診断にはMRI(磁気共鳴画像)検査が行われます。
一般的に肩腱板断裂の治療では、まず炎症を抑え、痛みを和らげるための薬物療法が行われます。消炎鎮痛薬の内服薬や貼付薬のほか、痛みが強い場合にはステロイド薬やヒアルロン酸を肩に注射することもあります。7~8割の患者さんは薬物療法によって炎症が抑えられ、痛みが和らぎます。痛みが和らいだら運動療法を開始します。症状が改善しない場合などには手術が検討されます。
3.肩腱板断裂の手術
一度あなが開いた腱板は、自然に塞がることはありません。手術では、断裂した腱板を上腕骨の骨頭につないで修復する腱板修復術が行われます。肩の一部を切開して行う直視下手術と、関節鏡を挿入して行う関節鏡下手術があり、現在は、関節鏡下手術が多くの医療機関で行われています。
手術後数週間は腱板を固定しておく必要があるため、多くの場合は入院が必要になります。退院後は低下した筋力を回復させるために、通院してリハビリテーションを行います。一般的に、手術後、腱板が上腕骨にしっかりと固定されるまでには、約半年間かかるとされています。また、日常生活では無理に肩を動かすと再び腱板が断裂する危険性があるため、水泳やテニスなどのスポーツは控え、腱板に負担がかからないように生活することが大切です。
4.肩腱板断裂の運動療法
注意!
運動を開始してもよいかどうかを医師に確認したうえで行う
運動中に痛みが出た場合は、医師に相談する
●ストレッチ 3~5分間×朝夕など1日2~3回
(1)背筋を伸ばして立ち、両腕を体の後ろに回す。
(2)痛みのある側の手首を反対側の手でつかんで真下に下げ、痛みのある腕を伸ばして5秒間保ち、元に戻す。これを繰り返す。
●ゴムバンド体操 各3分間×朝夕など1日2~3回
【外側へ向けて力を入れる】
(1)姿勢を正し、両手でゴムバンドを持ち、両腕を90度に曲げる。
(2)わきを締め、痛みのある腕でゴムバンドをできるところまで外側にゆっくりと引っ張る。
(3)5秒間保ったら元に戻しこれを繰り返す。いすに座った姿勢で行ってもよい。
【内側へ向けて力を入れる】
(1)姿勢を正し、ゴムバンドを体の後ろに通して両手で持つ。
(2)わきを締め、痛みのある腕でゴムバンドをできるところまで内側にゆっくりと引っ張る。
(3)5秒間保ったら元に戻しこれを繰り返す。いすに座った姿勢で行ってもよい。
【上に向けて力を入れる】
(1)背筋を伸ばして立ち、痛みのある側の足でゴムバンドの端を踏む。
(2)痛みのある腕でゴムバンドの反対側を持ち、体の斜め前に腕を出す。そこから腕を横方向に約45度上げる。
(3)5秒間保ったら元に戻し、これを繰り返す。
NHK「きょうの健康」2013年8月1日放送分