[ カテゴリー:生活 ]

一見ヘルシーな食生活なのに、なぜ不健康? 妻依存型ビジネスマンの落とし穴

共働きだという、会社員男性のAさん(41歳)の朝ごはんは、今時珍しいちゃんとした食事だ。ある日の献立をみると、

・白米ごはん 
・鮭の塩焼き
・豆腐とわかめの味噌汁
・サラダ(スモークサーモン、レタス、ブロッコリー)
・ゆで卵

というラインナップ。いつも、ごはん、魚、みそ汁が基本ベースとなっていて、それにサラダや果物が付いたりする。朝から牡蠣の炊き込みご飯が登場する日もあり、「奥様、すごいですね…」とおもわず口にしてしまった。

そして、仕事で帰りが遅い日が多いからか、夜には、お茶漬けとおでん(ちくわ、卵、大根、昆布)といったものが並ぶ。しかも、それにビールが添えられていたりして、食事記録ごしにでも、奥様に大事にされているんだなー、と感じてしまう。

さて、そんなふうに、奥様にきちっと面倒を見てもらって(!?)、平均よりもかなり良い食生活をしているであろうAさん。さぞかし健康であろうとおもいきや、実はなかなかのメタボ腹。以前と比べて仕事の効率が落ちた、集中力が続かない、という悩みを抱えていた。

そこで、彼自身がチョイスして食べている1週間分のランチを見ると、

月曜日:ヘルシー弁当
火曜日:焼肉弁当
水曜日:ハンバーグ弁当
木曜日:回鍋肉定食
金曜日:焼肉ハンバーグ弁当
土曜日:寿司
日曜日:しゃぶしゃぶ

と、メタボ腹も納得な好み。家では魚が多いため、外で食事を選ぶときには肉ばかり。ハンバーグ弁当の中身はハンバーグとエビピラフの組み合わせで、お子様ランチを彷彿とさせるような食事が好みのようである。とはいえ、夜の食事量が多いわけでもないし、朝のメニューもバランスが良い。では、なぜ、仕事の効率が落ちたり、集中力が落ちてきたのだろう?

ランチでの「塩分」摂りすぎが集中力を失わせていた!?

実は、せっかくの奥様の食生活への気配りが、旦那様のランチセレクトによって無残な結果になっているのが大きな原因だ。その鍵となるのは、「塩分」。食塩に含まれるナトリウムが高血圧の原因となることは知られているが、血圧が高いと血管が収縮し、血流が悪くなることで、栄養と酸素を供給すべき細胞に充分に行き届かなくなる。それは、脳への栄養補給についても同じことがいえる。つまり、栄養バランスよく食事を摂っているつもりでも、塩分の過剰摂取によって、その力を最大限発揮できなくなってしまうのだ。そして、それが、Aさんの場合には、集中力が続かない、という症状の一因となっていた。

「DASH食」という言葉を聞いたことがあるだろうか。Dietary Approaches to Stop Hypertensionの略で、アメリカで研究された高血圧を防ぐ食事プランなのだが、ここで推奨されているのは、「果物、野菜、ナッツ、魚、鶏肉、全粒粉」などを増やし「牛肉、豚肉、砂糖や脂肪を含む菓子・砂糖入りのソフトドリンク」などを減らそうというもの。栄養素に置き換えると、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維、良質のたんぱく質を積極的にとり、逆にコレステロール、飽和脂肪酸を多く含むものを控えよう、ということになる。アメリカ人と日本人の食事スタイルは異なるが、ただ摂取する塩分量に気を付けよう、というより、増やすもの、減らすもの、を意識した方が生活に取り入れやすい。

そして、この観点からもう一度Aさんの食事記録を見直すと、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維が充分に摂れているとは言い難い。カリウムは、豆、イモ、海藻に多く含まれるが、「煮る」という調理法によって、30%ほど損失してしまうので、サラダ、もしくは、汁物のように煮汁ごといただけるメニューにすると良い。

Aさんの食卓によく登場する魚は、それ自体はヘルシーだが、刺身であればツマ、焼き魚であれば大根おろし、を添えなくては、摂っている塩分に対して、カリウムや食物繊維の量が少なくなってしまう。一方、肉自体は悪者ではなくても、ハンバーグや焼肉のような、濃い味のたれを多用するものは、どうしたって塩分が多くなる。Aさん自身も、お肉料理を選ぶときには、シンプルに焼いただけのものであったり、タレが少ないものを選ぶ意識は必要だろう。

増やすべき栄養素のひとつ、マグネシウムは、加工していない食品に多く含まれるので、Aさんの場合、ランチではほとんど期待できない。だが、マグネシウムとカルシウムの摂取量は、1対2のバランスで保たれると、血圧調整がより円滑に進むと考えられている。マグネシウムは、カルシウムの、筋肉や血管の細胞に入り込んで血管を収縮する働きをバランスよく調整し、必要以上の血管収縮を抑えたり、血管の拡張を促す。骨粗しょう症予防やイライラ予防にとカルシウムだけを意識するだけではなく、この機会にマグネシウムも一緒にチェックしてみよう。

マグネシウムは、大豆製品、ナッツ類、海藻類、干しエビなどに豊富に含まれるが、白米でなくても大丈夫であれば、胚芽米や雑穀入りのものにすると良い。奥様の方で気をつけられることがあるとしたら、朝ごはんのときに、ごまや海苔などを添えてあげること。それだけでもマグネシウム摂取につながるだろう。

「ヘルシー」のつもりのお茶漬けが、塩分摂取量に追い討ちをかける

Aさんの夜のメニューにお茶漬けが多いのは、多分、少量の炭水化物でも満足できるように、ヘルシーに、という配慮だと思うのだが、ここでもまた塩分が気になる。さらに、一緒にあるのがおでんや焼き鮭だったりすると、一見ヘルシーそうなそのメニューがさらに塩分摂取量に追い打ちをかけている。もしもお茶漬け系でいくのであれば、刺身をのせて、鯛茶漬け風にしたって良い。塩をふって焼く、しょうゆをつけて食べる、などの調味料分だけでもカットできる。もっというと、魚油に含まれるEPAと呼ばれる不飽和脂肪酸には、動脈硬化や高血圧を予防する働きがあるが、焼いたり煮たりすると調理によって損失してしまうので、脂を必要以上に流さないお刺身でいただくのが良いだろう。

また、昆布には、血圧上昇を抑制するアルギン酸や水溶性食物繊維のフコイダンが豊富なので、水に昆布をつけて、冷蔵庫でストックしておくだけの、昆布だしを常備しておくのもおすすめだ。もちろん、お茶漬けに使っても良いし、普段の味噌汁のだしに使っても良い。

「血圧が高め」と診断されても、そんなに心に響かないかもしれない。ただ、特に目立った症状がなく、サイレントキラーともいわれる高血圧は、そのままにしておくと、脳卒中や心筋梗塞の引き金となる。日本では、高血圧症の人は約4000万人いると推定されている。頭痛、めまい、肩こりなど、気になる症状があれば、今から注意した方が良いだろう。決して他人事ではないのだ。

和食は塩分が多いといわれているが、みそ汁ひとつとっても、ナトリウムを排泄する働きのあるカリウムや食物繊維が豊富な海藻、野菜、キノコ類を摂ることでバランスをとってきた。朝の焼き魚も良いが、たまには納豆で簡単に終わらせても良い。和食だから健康的、と考えるのではなく、食材の使い方にも意識を向けてみよう。

「家のごはんがヘルシーだから…」と、外でハメを外して10キロ太った人も

ところで、旦那様の健康管理ならぬ、体型管理に頭を悩ませている奥様がいらしたら、注意すべきことがひとつある。カレー、ハンバーグ、オムライス、というような、いわゆるファミレスにあるタイプの料理が好きな男性の場合、家でストイックな健康食を出されるとストレスを強く感じる傾向にある。それによって、外で食べるときに、よりジャンクなものを選ぶようになったり、仕事だといって家では食べない、という秘策にうって出るケースも少なくない。最近も、奥様が減塩とカロリーオフに精を出して料理を作り続けたところ、そのストレスから外でハメを外すようになり、1年で10キログラム太った男性がいた。

そんな旦那様への対処策としては、メニューの一品は、ガツンとしたメニューにすること。全部が全部、いかにもヘルシーそうなメニューにするから、反動が起きるのだ。本人が「おいしい」と純粋に思えるものが少しでもあると、満足感が一気に高まる。面倒に思うかもしれないが、そういう人の“好きなもの”はかなり偏っている場合が多いため、基本の献立には悩まずに済むし、好きなものが一品あれば他のものに文句を言わない、という一面もあるので実は楽チンなのだ。それが、鶏のから揚げ、だとしても、少量楽しんでもらうことが大事。たまーーに出たから揚げが2個しかなかったら不満が出るかもしれないが、割と頻繁に出るから揚げが少量なら、あまり文句は言われない。

不足しがちなビタミン・ミネラルをしっかり補給しつつ、塩分にも目を向けて、その栄養素は最大限効力を発揮できるための環境を整える。好きなものだけを食べる、というのは論外だが、和食は体に良い、魚は体に良い、だけではなく、全体像を見渡すことが欠かせない。そして、奥様の努力を生かすべく、自分でも自身の健康に留意し、ランチのメニュー選びではもっとバリエーションを増やしてもらえるとうれしいものだ。


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