保護者にとって、子どもの「しつけ」はとても難しいもの。時には自分のしつけ方が正しいのか、不安になることもあるだろう。教育者で、二人の子どもの育児経験を持つ元・イクメン、テレビでもおなじみの尾木ママこと教育評論家の尾木直樹先生に、子どもの「しつけ」について伺った。
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そもそも「しつけ」とは、子どもを自立した主権者に育てること。社会の中で自分の考えをしっかりと持って、モラルのある行動ができるようにするために、自己を確立させることが本来の目的です。しかし今の日本では、「人に迷惑をかけないようにする」という目的に偏ったしつけがされる傾向があります。周囲の目を基準にして子どもの行動を制御しようとする、それがしつけだと思い込んでしまっているようですね。
でもよく考えてみてください。迷惑をかけずに生きられる人はいません。むしろ、迷惑をかけるのはお互いさまだから、互いに支え合おう、という共生の思想こそが、本来は大事なはずです。今のようなしつけでは、子どもの自己肯定感がますます低くなる危険があります。優秀で敏感な子ほど、萎縮して自分を表現できなくなってしまいます。
また、「叱る」のと「怒る」のはまったく違います。「叱る」とは、相手のために意思を持って説得する、教育的視点が入る行為ですが、「怒る」とは、保護者が感情に任せて行う単なる自己満足です。ここには子どもの人格を尊重して内面をどう育てるのかという意思がありません。「しつけ」という一言で、子どもの人権を侵害するさまざまな行為が認められることは、許されません。
きちんと言えば、子どもは理解できるのです。以前オランダの学校を視察した時、4歳の子どもたちが、チャイムや指示がなくても授業の開始時間に席についていました。僕はびっくりしたのですが、教師は「みんな時計を見て動きます。きちんと言えば理解できますよ」と話しました。このように、子どもの人格を尊重しながら、一人の人間として自立させることを、社会全体で支援していきたいですね。
http://news.goo.ne.jp/article/benesse/life/education/benesse-7243.html