中距離弾道ミサイル「ムスダン」を発射する構えをみせ、日米韓3カ国を翻弄する北朝鮮。いったいいつ撃つのか-。「4月15日」「4月下旬から5月上旬」といった発射時期に関する分析が飛び交う。ただ、ここにきて「発射見送り説」も広がりつつある。
■週末はない
政府は13日、「すわ発射か」と浮足立った。
午前5時40分。安倍晋三首相や菅義偉官房長官らの非常用電話が一斉に鳴った。その電話は危機管理の局面でしか鳴らない。
「ついに撃ったか」。菅氏は直感したが、秘書官は兵庫県・淡路島で震度6弱の地震があったと伝えた。菅氏は午後には地元の横浜市で講演し、「いつミサイルが飛んでくるか分からない」と発射時期を読み切れていないことを吐露した。
14日未明に発射する可能性も消えてはいないものの、政府はこの週末の可能性は低いと踏んでいるフシがある。岸田文雄外相が小野寺五典防衛相とともに東京・市谷の防衛省で地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を視察したのがその証左だ。
「いまご覧のPAC3システムは…」。迎撃という実戦に備える部隊長の説明に、岸田氏は神妙な面持ちで聞き入った。
外相の部隊視察は極めて異例で、外務・防衛両省の一体感をアピールする狙いがある。だが、部隊側には「出迎え行事」の準備と実施に時間を割かれるデメリットもあった。自衛隊幹部は「きょうの発射はないと判断したから招いた」と明かす。防衛省首脳は「長丁場になる」と漏らし、早々と役所を後にした。
首相は13日、東京都台東区の寺へおもむき、1時間あまり座禅を組んだ。「座禅の途中に飛んでこないことを願う」とつぶやいた首相。緊張状態が続く中、心を静められたようで、帰り際には「落ち着きましたね」と表情を和らげた。
■15日説
発射時期について、日米韓が最も警戒するのは4月15日だ。金正恩第1書記の祖父、金日成主席の生誕101年の記念日にあたる。昨年4月に長距離弾道ミサイルを発射したのも、最大の祝典に花を添える祝砲と位置づけられた。
ただ、首相周辺は「生誕式典にかかりきりになるのでは」と15日発射説に懐疑的な見方を示す。ケリー米国務長官が15日まで日中韓3カ国を歴訪中であることを踏まえ、政府高官も「目の前で発射すれば虎の尾を踏む」と話す。米国の強烈な対抗措置を恐れ、自制するとの見立てだ。
■下旬~5月上旬
今月下旬から5月上旬の見立てもある。朝鮮人民軍創建記念日は今月25日。金第1書記は「先軍政治」を踏襲しており、「軍の記念日にミサイルを発射し、軍重視と士気高揚を強調することは十分考えられる」(韓国国防省筋)という。
5月上旬は、韓国での米韓合同軍事演習フォールイーグルが4月30日に終わることと関わっている。「実戦さながらの演習中の米軍を挑発すれば、強力な反撃を受ける」(同)ことを避け、米韓演習後に照準を合わせるという見方だ。
韓国国立外交院の尹徳敏教授は「朝鮮戦争終結に向けた交渉に米国を引き出すため脅威を示す」と分析、発射は不可避とみている。
■見送り
一方、防衛省の情報分析官は、13日のケリー氏と中国の習近平国家主席との会談に注目、「北は完全に外堀を埋められた」と語る。対北朝鮮けん制に中国もくみしたことで、挑発を重ねれば中国も制裁強化に踏み切りかねず、北朝鮮は自制せざるを得ないとみる。
過去3回の発射で常道だった予告期間の3日目以内に発射しなかったことを受け「発射見送り」の声もあがる。森本敏前防衛相も13日の読売テレビ番組で「これだけ米国を騒がせた。発射しなくても目的をほぼ達成した」と推定した。
森本氏がいう目的とは、米政府から非核化を条件としつつ「対話ができる」(ケリー氏)との言質を引き出したことで、金第1書記は指導力を内外にアピールできることを指す。このシナリオは米中両国にとって望ましい。米政府は自国領グアムに着弾の恐れがあるミサイル発射を封じ込められるし、中国は米中協調で北朝鮮を抑えこんだと誇示できるからだ。「三方一両得」の決着といえる。
とはいえ、金第1書記が合理的な判断をできるかどうか。自民党の石破茂幹事長が「ミサイルを撃つぞと発言している。これは戦争だ」と断じるように、金第1書記の言動と判断には常識では考えにくい危険性がつきまとう。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/politics/snk20130414500.html