東日本大震災後、被災3県をはじめとする東北地方の男性の自殺率が極端に下がったことが、山形県地域医療対策課の大類(おおるい)真嗣主査(36)の調査で分かった。
震災復興に伴う雇用増や景気改善が影響している可能性があるという。ただ、1995年の阪神大震災の時も、いったん下がった自殺率が2~3年後に上昇したという研究もあり、大類主査は「自殺対策の手を緩めてはいけない」と話している。
結果は今月6日に県立保健医療大で開かれた「県公衆衛生学会」で報告された。5月に福岡市で開かれる日本精神神経学会でも発表される予定。
精神科医でもある大類主査は、2011年の本県の自殺者が前年比で43人減の264人となり、1998年以来、初めて300人を下回ったことに注目。厚生労働省の統計で、11年の全国の自殺者は3万651人(前年比1039人減)、人口10万人当たりの自殺者を示す自殺率も22・9(同0・5減)と改善していた。特に、東北地方で自殺率の減少が目立った。
さらに、震災前の08年3月~11年2月と、震災後の11年3月~12年2月で自殺率を比べると、男性は、福島を除く東北5県と福井、和歌山、長崎の各県で6以上も減っていた。大類主査は「統計的には、偶然起こるとは考えにくい大幅な減少」と説明する。福島県も3以上6未満の減少だった。女性の自殺率に変化はほとんどなかった。
自殺の増減は景気に左右されるとも言われるため、経済指標との関連を調べたところ、男性の自殺率の低下と「企業倒産件数の減少」「有効求人倍率の上昇」に強い相関関係があることが分かった。大類主査は「被災地とその周辺では震災後、建設業や廃棄物処理業で求人が増加するなどし、景気が改善したことが自殺率低下に影響した可能性がある」と分析する。
一方、女性は一般的に、自殺の原因として精神的要因の方が大きく、景気との関連は男性より薄いとされている。大類主査も「女性は大規模災害後に自殺のリスクが高くなる可能性がある」と指摘する。
過去には、阪神大震災のほか、04年の新潟県中越地震の直後も、自殺率が一時的に低下したことが、他の研究から分かっている。しかし、いずれも2~3年後に上昇に転じた。大類主査は「今後は、被災地で行われている心のケアチームの活動の効果や、社会的な要因についても調査していきたい」と話している。
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