健康を損ない、問題行動で仕事や家族までも失いかねないアルコール依存症。治療は重症化してからの断酒療法が主で、早期治療や予防対策は不十分だった。そこで厚生労働省は、患者予備軍への減酒支援を特定健診・保健指導の中で行う方針を決めた。一部の病院では軽症患者への節酒療法を試みて成果を上げるなど、治療や支援の幅が広がってきた。
■「飲酒日記」で目標定め
アルコール依存症は、飲酒の欲求が抑え難くなったり、翌日まで酒臭さが残るほど多量飲酒を繰り返したりするなどの症状が、一定以上あると診断される。国内の患者数は約80万人と推計されるが、治療を受ける患者は4、5万人にとどまっている。
この病気は時間をかけて発症するため、予防の取り組みが欠かせない。厚労省は、特定健診と保健指導にアルコール問題の対策を加える方針で、今年3月に公表する改訂版の健診プログラムに盛り込まれる。
同省の最終案では、特定健診の質問票で、日本酒換算1、2合以上のアルコールを毎日、または時々飲むと答えた人たちに、多量飲酒の頻度や飲酒後の罪悪感の有無などを聞く10の質問に答えてもらう。これは、WHO(世界保健機関)が作成した評価法「アルコール使用障害同定テスト」(AUDIT)で、回答をそれぞれ点数化し、合計点で程度を判断する。
15点以上は「アルコール依存症の疑い」とされ、専門医療機関の受診を勧められる。8点以上、14点以下は「問題飲酒」で、減酒支援の対象となる。
減酒支援プログラムの柱は「飲酒日記」の作成で、「週に2日は休肝日を作る」など、減酒目標を自分で決め、日記をつけ始める。毎日の飲酒量と飲んだ状況、目標達成状況を書き留めるだけの簡単なものだが、習慣化することで節酒意識の向上を狙う。
国立病院機構・肥前精神医療センター(佐賀県)は、こうした減酒指導をアルコール依存症患者にも試みている。連携する病院で、飲酒日記の作成とカウンセリングを患者21人に行ったところ、15人が1日の飲酒量を目標値まで減らすことに成功した。
1日4合以上飲んでいた人でも、2合程度で落ち着く例が多いという。節酒を続けるうちに、慢性的なだるさがなくなるなど体調が改善し、節酒や運動に積極的になる例も目立つ。
同センター院長の杠(ゆずりは)岳文さんは「アルコール依存症が進むと、体への害に鈍感になってしまうが、アルコール使用障害同定テストで20点前後の軽症患者の多くは、まだ危機感を持っている。しかし『私に節酒は無理』とあきらめている人が多く、軽症患者に専門的な減酒指導を行う意味は大きい」と話す。
ただ、減酒の状態を維持できる患者は軽症者だけで、飲酒量に歯止めがきかない重症者は断酒が欠かせない。現在、飲酒欲求を抑える新しい断酒補助薬の認可に向けた審査が行われており、今後、断酒治療の選択肢も広がる可能性がある。
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