「サラリーマンは気楽な稼業」と言われたのも今や昔。長引く不況がお父さんたちの懐を冷やし続け、サラリーマン男性の平均昼食代が30年前の水準に落ち込んでいる。安倍政権への期待感から株価は上がってきているが、爪に火を灯す節約の日々は当分終わりそうもない。街頭からは「経済再生とともに小遣い再生も」との声が漏れる。(福田涼太郎)
■「空腹に慣れた」
多くのサラリーマンが行き交う平日の東京・お茶の水界隈。「もう空腹には慣れた」。この日、昼食を食べていないという東京都世田谷区の旅行会社社員、内藤泰介さん(29)は淡々と語った。
2月にも妻(29)との間に初子が生まれるが、満足に給料が上がる見込みは薄い。かといって、たばこや趣味のゲームはやめられそうもない。
「もともとたくさん食べる方ではなく、朝食さえ食べればいい」。食欲すら薄れ、日々の昼食代はここ半年間、ほぼゼロだ。
一方、東京・大手町のオフィス街でカップラーメンをすすっていたさいたま市南区の会社員、荻原哲也さん(30)。もっぱら昼食はコンビニめしで、500円以内に抑える。「子供も生まれて生活は厳しくなり、昼食にカネをかけるのがばかばかしくなった」
あの手この手で節約にいそしむサラリーマン。安さ目当てに近くの大学の学食へ足しげく通う人、おにぎりを持参してスープが飲み放題のネットカフェ(利用料15分100円が相場)で昼食を済ます“強者”も。
■「花金」はどこに
新生銀行(東京)がまとめたアンケートによると、男性サラリーマンの昨年の昼食代は、調査開始時の昭和54年を55円下回る510円。平成4年の746円をピークに徐々に減り、小遣い額も約30年前と同水準の4万円を切っている。
また、節約対象として昼食代や飲み代が30年前から上位に入り続ける一方、昨年は飲料費を抑えるための「水筒持参」が5位に初登場。「弁当持参」も8位に入った。1回の飲み代の平均額は、ピーク時の12年前の半額以下となる史上最低の2860円にダウンし、月6回だった回数は3回前後と半減した。
最近は飲み代の節約手段として、自宅での「家飲み」の回数を増やす人も多いという。バブル期に流行した「アフターファイブ」「花金」といった言葉は姿を消し、上司や同僚と飲食をともにしてコミュニケーションを図る「飲みニケーション」も廃れつつある。
■食うのも仕事
一方で、「食べるのも仕事」と持論を展開するのは横浜市南区の銀行員、八尾章生さん(44)だ。
「営業成績が下がっている部下を問い詰めると、昼食をしっかり食べていない人が多い。部下には『しっかりメシを食え。食べるのも仕事』と指導している」と力を込める。十分な食事を取らないと脳に行き届く栄養が不足し、思考が不活発になるとされるだけに説得力はある。「どんな時代でも昼食はガッツリ食べないと」と八尾さんは言う。
今回の調査を監修したマーケティングコンサルタントの西川りゅうじんさん(52)は「30年前と違って今は『明日はよくなる』という希望がなく、『平成サラリーマン残酷時代』といえる」と話す。その一方で「みんな苦しいはずなのに、ネット上で節約術の情報交換をするなどして逆に楽しんでいる。雑草魂のようなたくましさを感じる」と話した。
■昼食時間も激減
新生銀行のアンケートでは、サラリーマンが昼食にかける平均時間は、昭和58年に33分だったのが昨年は19・6分まで短くなった。昼休み中の食事以外の過ごし方も、同僚とのおしゃべりの時間が減り、「インターネット閲覧」がトップに。社内でコミュニケーションが減っている状況が浮かび上がる。
アンケートによると、昼食は近い店を選ぶ傾向が強くなっている。同行は「人員削減などで業務量が増え、時間を惜しんで働いているかも」と推察する。
一方、昼休みの過ごし方(複数回答可)では「ネットの閲覧」と回答した人が若い世代を中心に5割以上に達し、「友人、同僚とおしゃべり」が1、2位だった約30年前と比べると1人で過ごす傾向が進んだ。
東京大学大学総合教育研究センターの中原淳准教授(経営学習論)は「同僚との食事や飲み会を重ねることで以心伝心の間柄になれることも多い。その機会が減ると、『あうんの呼吸』が通らなくなる可能性もある」と指摘する。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/snk20130120527.html