文化庁の「国語に関する世論調査」の結果、国民の漢字を書く力が衰えていることが浮き彫りになった。
全国の16歳以上の男女を対象とするこの調査で、パソコンや携帯メールが日常生活に与える影響について質問したところ、「漢字を正確に書く力が衰えた」と回答した人が67%に上った。
10年前と比べると、実に25ポイントも増えている。
日常生活において、肉筆で手紙や文書を書く機会が減っていることは間違いない。それがこの数字に表れていると言える。「手で字を書くことが面倒臭く感じるようになった」という人が、大幅に増えたのは、その証左である。
今後、日本語の能力が十分身に着いていない子どもたちが、パソコンや携帯電話を使ってコミュニケーションを図る機会は増えていくだろう。漢字を書く能力が、ますます衰えていくのではないかと、懸念せざるを得ない。
一方で、高校までに学習する漢字は大幅に増えた。
今やキーを押すだけで難しい漢字を簡単に表示出来る。こうした時代の変化に対応するため、政府が2年前に常用漢字表の改定を行ったからだ。
その際、改定に主導的な役割を果たした文化審議会が、「手書きは漢字を習得し、その運用能力を形成していく上で不可欠」と、書き取りの重要性を強調したことに改めて留意したい。
繰り返し漢字を手書きすることによって視覚、触覚、運動感覚が鍛えられ、脳も活性化するといった効用があるという。
家庭や教育現場で、子どもたちに手書きの重要性をしっかり教えていく必要がある。
同時に、文学作品などの読書を通じて、普段から漢字に触れることも大事だ。それが、日本語の正しい用法や豊かな言葉の表現を身につけることにもなる。
今回の調査では「相手や場面に応じて敬語を使う」という人や、電車の降車時に「すみません」と声をかける人が際立って増えていることも明らかになった。
「自分自身の言葉の使い方に気を使っている」と回答した人は約8割を占めている。とりわけ若い世代に顕著に見られる。
他人との摩擦を恐れ、気を使わざるを得ない状況が進んでいるということなのだろうか。電子メディアの利用が拡大していることと無縁ではあるまい。言葉の使い方の変化から、日本社会の今日の有り様もうかがえる。
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/life/education/20120929-567-OYT1T01158.html