◇昼夜の頻尿、排尿時の痛み
山梨県北杜市の主婦、八木由利子さん(71)は昨秋から膀胱(ぼうこう)炎を繰り返し、悩んでいる。排尿時のチクッとする痛みと尿の濁りに気付き、病院で抗生物質をもらう。4~5日分を飲み切ると治まるのだが、しばらくするとまた、尿が濁ってしまう。尿を調べると大腸菌が検出され、膀胱炎と診断された。腫瘍の検査も受けたが、異常は見つからなかった。
八木さんは「主治医からは無理をせず体を冷やさない、清潔に、と言われる。もともと冷え性で、70歳を過ぎて抵抗力が落ちているのかも。健康のため運動したいけど、疲れるのが心配」とこぼす。
◇細菌入り込み炎症
膀胱炎は、尿をためる袋状の膀胱に細菌が入り込み、炎症を起こす病気だ。原因となる細菌の8割が大腸菌で、肛門周囲や陰部に存在する。女性は尿道口が肛門の近くにあり、大腸菌が入り込みやすい。膀胱炎が女性に多いのは、このためだ。
主な症状は、頻尿▽尿の濁り▽排尿時の痛み――で、残尿感のある人もいる。通常、1日あたり平均で4~7回、計1・2~1・8リットルの尿を出す。頻尿の目安は1日8回以上とされているが、膀胱炎になると、1日十数回トイレに行く人も珍しくない。炎症を起こした膀胱が過敏になり、尿が少ししかたまっていなくても「たまった」と感知してしまうためだという。
東京女子医大東医療センターの巴ひかる教授(骨盤底機能再建診療部)は「心因性による頻尿の人も少なくないが、この場合、就寝中にトイレに起きることはあまりない。膀胱炎の頻尿は昼夜を問わない」と説明する。
痛みは排尿し終わる時に感じる人が多い。こうした症状があれば、膀胱炎を疑って受診する。治療法は抗生物質の服用だ。症状がなくなっても、薬を最後まで飲み切ることが重要。原因菌が残っていると再発を招きかねないためだ。巴教授は「原因菌をはっきりさせるため、初診時に尿の培養検査を受けることが望ましい」と話す。
◇陰部を清潔に
膀胱炎を防ぐには、菌が膀胱に入りにくくする生活習慣が欠かせない。排便の後は前から後ろにふいたり、陰部を清潔にすることでリスクを減らせる。性行為がきっかけで膀胱炎になることもあり、若い人に目立つ。性行為の後はトイレに行って、菌を尿と一緒に流し出すことも予防につながる。疲労や寝不足は、病気への抵抗力を落としてしまうので避けたい。
細菌が原因でない膀胱炎もある。近年、注目されている「間質性膀胱炎」だ。田村クリニック(東京都多摩市)の伊藤貴章副院長によると、膀胱の壁を保護する粘膜が損傷し、修復されずに炎症が続く状態で、なぜ起こるのかは分かっていない。
頻尿のほか、尿がたまると膀胱が刺激され、強い痛みや違和感がある。ただ「痛みをそれほど感じない人もおり、細菌性の膀胱炎や急に強い尿意を感じる『過活動膀胱』と診断されてしまうこともある」と、伊藤副院長は話す。
原因が分からないため根本的に治すのは難しいが、対処法はある。診断と治療を兼ねた「膀胱水圧拡張」は保険適用されており、治療の第一選択になっている。麻酔をした上で、生理食塩水を注入して膀胱を広げ、内視鏡で膀胱内部を観察する。点状の出血や潰瘍などが見られれば、間質性膀胱炎と診断される。
伊藤副院長は「水圧で膀胱を広げると患者の半数以上は症状が改善するが、時間がたつと再燃する可能性がある。再燃させないためには、辛いものやカフェインを控える食事や、水分を多めに取るなどの行動療法が重要」と指摘する。
◇受診前、排尿日誌を
巴教授は「尿の頻度や量などを記録する排尿日誌を連続2日分ぐらいつけて受診すると、診断や治療効果を知るのに役立つ」とアドバイスする。
排尿日誌は日本排尿機能学会のホームページ(www.luts.gr.jp)からダウンロードできる。【下桐実雅子】
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■膀胱炎を防ぐ生活習慣
▽おなかを冷やさない
▽便秘に気をつける(大腸菌が繁殖しやすくなる)
▽排便後は前から後ろに向けてふく
▽トイレをがまんし過ぎない
▽疲労をためない
▽性行為の前はシャワーを浴び清潔にし、後はトイレに行く
▽生理用品はこまめに取り替える
(巴ひかる教授の「膀胱炎がわかる本」をもとに作成)
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/medical/20120514ddm013100042000c.html